ERな人 VOL.3 BLUE LUG 代々木公園店

photo / Kazuharu Igarashi text / Koji Toyoda

 1906年創業のアメリカンワークブランド〈スミス〉。1960年代にメイド・イン・USA物として日本に流通するようになって半世紀。その魅力は決してリアルワーカーのためだけではない。様々な分野のエキスパートたちにその良さを大いに語ってもらった。

 

街の自転車屋に馴染んだ、スミスのワークウェア。

 

 

ブルーラグ代々木公園店のスタッフ。左からセントさん、クリントさん、松本さん、トミーさん。

 

 

 

 

「僕らの日常の姿を崩さず、本質も弁えたワークウェア」

 

「その昔、古雑誌で見たスミスの広告はお洒落でしたね。ネイビーブレザーにペインターパンツを合わせて。足元には、〈コンバース〉のオールスター。無骨さが売りのアメリカンワークブランドの中でも、一際輝いて見えましたね」

そう語るのは、『ブルーラグ代々木公園店』の店長、松本和也さん。学生時代からアメリカントラッドを愛してきた彼が、数あるメイド・イン・USAもののワークウェアの一つとして触れたのが、〈スミス〉との出合い。

「でも、実際に着るようになったのは、つい最近のこと。日々の作業着として、このオーバーオールを手に取ってみたんですが……。それまでファッションブランドと捉えていた〈スミス〉のイメージがいい意味で変わりました。何よりも耐久性の高さ。買ってすぐに乾燥機に掛けてみたんですが、綾目の立った、密度が高い生地なので縮まないんです(笑)。エプロンのように露出している箇所も少なくて汚れが付きにくいのも大きなポイントでしたね。というのも、僕の場合、いわゆる作業着のままで接客したくなくて。医師の“白衣”のごとく、いつもの普段着の上から着るんです(笑)。作り自体にゆとりがあって、ストラップやベルトの締め付けもなく、そもそもが動きやすい〈スミス〉のオーバーオールはかくも理想的でしたね。それでいて、アメリカ物のトラディショナルな雰囲気をしっかりと漂わせている。袖を通すことで初めて、〈スミス〉って、日常の姿を崩さずに、しっかり本質も携えたワークウェアなんだなと。その良さに初めて気づきました。ただ、自転車作りという仕事は、いろんな角度から物事を見極めていくことが多いので、レンチやドライバーなどを突っ込めるツールポケットは胸当て部分にあるのがいいなぁと(笑)。いつか〈スミス〉さんに『ブルーラグ』専用のカスタムをして欲しいですね」

 

 

「ラフさとタフさを併せ持った、ビッグサイズのオーバーオール」

そんな店長の松本さんの後を続けと言わんばかりに、スタッフも思い思いに〈スミス〉のワークウェアを作業着として選ぶようになった。松本さんと同じように、オーバーオールを着ているのは、トミーさん。

「小学生以来、久々のオーバーオールでしたが、すぐさま馴染みました。ホイールに1本、1本スポークを嵌めていくホイール組みと呼ばれる作業を大体毎日やるんですが、この作業が、しゃがんだり、立ったりの連続で……。その体の動きにもこのオーバーオールは、無駄なストレスを感じさせません。しかも、僕の場合、ジャストサイズで窮屈に着るのではなく、オーバーサイズを選んでいるので、ラフで動きやすいですしね。それに肩のストラップや胸当ても、各々の趣味趣向を表明する“キャンバス”にぴったり。僕は、大好きなスヌーピーと最近ハマっているカメラ「T-PROOF」のピンズでカスタム。ずるずるの裾はハサミでカットオフして、切りっぱなしのまま着ていますね」

 

 

「清潔感を損なわず、きっちりと穿くペインター」

去年の11月に代々木公園店のメカニックに配属されたクリントさんは、オリーブカラーのデニムペインターパンツを愛用中。

「実はこれ、スミス ジャパンチームの社用車をメンテナンスしているところなんですよ。一昨年の7月に広報のOさんがふらっと来られて……、僕が一から組ませてもらった思い入れのある一台なんです。そういう縁もあってか、いつの間にか〈スミス〉のペインターパンツを穿くようになりまして。僕は汚れが目立ちにくいオリーブカラーの素材を選びました。裾はロールアップせずに、〈バンズ〉のスリッポンに掛かるくらいの長さできっちり裾上げ。まだまだ駆け出しなので、いつでもピシッとしていることも仕事のうちのひとつかなと。仕事中、腿脇のスパナポケットには、作業に欠かせないドライバーと六角レンチをイン。これも手に届きやすい位置に設定されていて、つくづく便利なんですよね」 

「汚れるほどに愛おしさが増す、白のペインターパンツ」

 

クリントさんとは、真逆に日々の汚れを白いペインターパンツに蓄積させているのが、BMXライダーとしても活動するセントさんだ。

「松本さんはスケボー、トミーさんはカメラ、クリントくんはペイント。みなそれぞれ自転車とは別のバックボーンがありますが、僕の場合は仕事も趣味も自転車一筋。大袈裟に言えば、自転車は組むこと自体が、僕の生活そのものなんです。だから、そんな日々の作業の中で衣服にこびりつく汚れは、ある意味、日々の鍛錬の結晶のようなものかなと思っていまして。あえて白のペインターパンツなんです。白いキャンバスコットン生地が、日々の記憶や汗と共に徐々にくすんでいく様子は、大切なデニムを育てていくかのようで楽しいですよね。ちなみに自転車に乗る時の癖で、裾は常にロールアップしていますね」

 

と、『ブルーラグ 代々木公園店』のスタッフは、みな“ワークウェア”の本質の恩恵を授かりながらも、それぞれのキャラに合ったファッションとしても楽しんでいる。そして、

「“自転車”以外のカルチャーが各スタッフに根付いているのが『ブルーラグ』の強み」と松本さんが言うように、だからこそ、この店は自転車マニアじゃなくともふらっと入れる間口の広さがある。トミーさんと「T-PROOF」の話をしに来たついでに、新しいパーツを増やしたり、自転車そのものへの造詣を深めたり。ある意味、『ブルーラグ 代々木公園店』は街のコミュニティ。古くはブルックリンのワークマンたちに日常的に愛されてきた〈スミス〉だからこそ、こんな場所にも自然と馴染むような気がするのだ。

 

ブルーラグ代々木公園店

地下鉄千代田線、代々木公園駅から徒歩3分。エブリデイバイクを中心に、ピスト、ロード、クロスバイクなど、オールジャンルな自転車が揃う。“カルチャー”を愛する4人のスタッフが迎えてくれる、初心者にも街の優しき自転車屋。○東京都渋谷区富ケ谷1-43-3 ︎ 03・6416・8532 12:0020:00 火・木休

 

 

VOL.1 L'ECHOPPE 金子さん 

VOL.2 TAHLIA STORE 鎗田さん