ERな人 VOL. 80 サカタ カズヤ (INSTALLER)
ERな人 VOL. 80 サカタ カズヤ (INSTALLER)
photo, text, edit by NAOKI KUZE
1906年に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)。1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で様々な役割を持ち活躍する”ERな人”達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。
ーインストーラーとはどんなお仕事なんですか?
サカタ カズヤ (以下サカタ): インストーラーって日本語で言うと、たぶん展示設営技術者みたいな感じなんですけど、単純に設営するのもインストーラーなんですけど、僕はアーティストの想いを視覚化するものがインストーラーだと思ってて。
ーというと?
サカタ: 僕はアーティストと一緒に空間を作ることを大切にしているので、いろんなパターンがあるんですけど、平面作品、立体作品問わず、造作物も含めて一緒に空間選びの段階から展示方法の提案もさせてもらうので、いわゆるディレクション込みの設営っていうのが多いですね。例えば、展示前にアーティストの作品の方向性をヒアリングしてから、この空間だとこういうことができるよねとか、こういう見せ方ができるよねとか、どれぐらいのサイズの作品がこの空間だと合うんじゃないかとか、合わせてこういうものをここに作るとより作品が映えるんじゃないかっていうのを提案させてもらって。あくまでもアーティストの意思を尊重した上で、僕の経験や、感性を足させていただいてるっていうような感じですね。
ーなるほど。サカタさんの提案にアーティストの意向がマッチすれば設営展示の他、空間に合わせた什器製作なども行うということですね。
サカタ: はい、そうです。もちろんピンポイントで作品に合わせた什器を作りたいってオーダーをされることもありますし、作品のテーマを漠然と言われて、じゃあこういうのを作ったら面白いんじゃない?っていうのを僕の方から提案するのと、2パターンありますね。
ー元々は家業である坂田工務店で建築のお仕事をメインで活動されていた中で、どのようにしてインストーラーとして活動するようになったんですか?
サカタ: 僕は学生の頃からアートやインテリア、音楽がある空間っていうものが好きで。その中で、家業の建築を最初は手伝っていたんですけど、働く中でより建築に興味を持ち、父が代表を務める坂田工務店に入社しました。ただ、ちっちゃいプライドですけど、今よりもっと若い時は親が持ってた仕事をまんまもらうっていうのが、やっぱり自分的にはちょっと恥ずかしい気がして。そういったジレンマの中で、自分が好きなアート・インテリア・音楽っていうものを何か建築と繋げられないのかなって思ったのが1番最初のきっかけなんです。そうしていくつか知り合いのアーティストのお手伝いをさせてもらっていくんですけど、「インストーラーとしてやっていきたい!」って思った1番のきっかけは、アーティストのトマソンからいただいたオファーだったんです。
モンスターアーティスト TOMASONさんとサカタさん。
駒沢公園前のE2 GalleryでのTOMASONさんの新作展示のインストールも担当していた。
ー以前「ERな人」でも取材させていただいたトマソンランドの時ですか?
サカタ: そうです。そのトマソンランドでの体験は僕の中でも本当にデカくて。トマソンランドはホテルの1フロアを丸々展示で使用する大規模なものだったので、トマソンが展示全体の設計を僕に任せてくれたんです。それで展示を回廊するための動線や展示全体の空間設計を僕が担当し、その出来上がった空間にトマソンが1ヶ月かけてドローイングを施していったんです。あの展示でやっぱり僕は誰かと一緒に物作りをすることが好きなんやっていうのと、自分の立ち位置がわかったんです。僕は前面に出るのではなく、あくまでもスーパー裏方なんだと。作品を通してアーティストの魅力を伝えるためのサポートとして空間設計することを大切にしてるんです。トマソンランド以降は、よりそういった気持ちを大切に実施していて、現在のような活動スタイルに行き着きました。
ー今まで1番大変だったインストーラーとしてのお仕事は?
サカタ: 最初にして1番大変だったのもトマソンですね(笑)。やっぱり会場も広いし設営に1ヶ月ぐらいかかったので。それ以外のアーティストも基本的には展示スタートのギリギリまで製作されていることも非常に多いので、設営の当日まで展示作品を拝見出来ないケースもあるんです。なので事前に打ち合わせた内容から大きく変わっていたりすると、現場で臨機応変に対応をしなければならないので楽な設営っていうのはあまりないかもしれませんね。
ーインストーラーとして大事にしていることは?
サカタ: やっぱり展示されている作品は全部しっかり見て欲しいんですよ。なのでバランスよく作品を配置するっていう難しさが常にあるんです。アーティストと事前に「こういう作品を作ります」っていう打ち合わせをしていても、上がってきた作品を拝見した時に、「メイン作品じゃないけどこっちの作品も思ったよりいいぞ」とか、「この作品は惹きつける力が強い作品だから敢えて端に飾ってもいいんじゃないか」とか。だから全体のバランスを考えるのが、大変ではあるんですがインストーラーとしての醍醐味でもあるんです。インストーラーとアーティストには見える視点が違うと思いますし、アーティストにはやっぱり作品を作ることに集中してもらって、作品の魅力+αの部分をインストーラーとして別の立ち位置からの視点でサポート出来たらなと。その結果いい感じに展示空間を生み出し、お互いに満足出来た時の喜びはひとしおですね。一度お仕事させていただいた方にはリピートしてもらえることも多いですし、最近は知り合いだけじゃなく、飛び込みで新規のお客さんともお仕事させていただける機会も増えたので本当にありがたいです。
ーそれはアート系のインストールですか?
サカタ: 新規に関してはアートの展示だけでなく、ライブフェスの空間装飾やポップアップストアのインストールなんかもあって仕事の幅が広がってきてとても楽しいです。
ーインストーラーとして喜びを感じるのは?
サカタ: 自分の感覚には結構自信を持ってて。それがビシッとはまって展示空間をアーティストさんに見てもらった時に、「想像以上でした」って言ってもらえる時はやっぱり嬉しいですね。でも逆の喜びもあって、僕がめっちゃこだわってインストールしたって思われないのも正解だと思ってて。要はその作品をよく観てもらえるようにっていう部分が前提としてあるので、展示に訪れたお客さんには何も感じずに「観やすいな」と思ってもらえたり、「良い展示だったな」とシンプルに思って帰ってくれるのも僕は正解だと思ってて。だから僕の存在が完全に消えるのも良いことだと思ってるんで、自分の中では裏方に徹することが出来た時こそ嬉しい部分だったりはしますね。
映像作品が鑑賞出来る小屋もサカタさんが今回の展示の為に製作した。
ーインストーラーとして活動している時のスタイルのこだわりを教えてください。
サカタ: 建築業界の人間ではあるのですが、いわゆる作業着っぽい服ではなく、僕自身はファッションが大好きだということもあって動きやすさは大事にしてますけど、何より僕自身が毎日テンションが上がるカッコ良い服で仕事したいと思って活動しています。ちなみに今日はBRAINDEADのリップストップのアノラックにインナーは大谷じゃなく昔から大好きな野茂のTシャツ(笑)、ペインターなのに軽い履き心地のスミスのレアールで今回のインストール作業もめっちゃ捗ってますよ。
ー今後の展望を聞かせてください。
サカタ: 実は家業の坂田工務店が創業70周年なんですよ。祖父が大工から始めて、父親が継いで、そして僕が3代目になるんですけど、先代が築いてきた良い部分も残しつつ、自分らしさも前面に出していけたらと思っています。正直、建築って堅そうに見える部分ってあるじゃないですか。その印象を変えていきたいなって思って活動しているところもあるんです。時代にあったこととか、楽しいを作るのも自分だと思ってるので。僕の働いてる姿を見て、なんか楽しそうだなって思ってもらえるように自身の好きなことと家業でやってる部分をうまく繋げていけるっていう姿を見せていきたいと思ってやってます。その上で展望としては坂田工務店を100年まで続けること。インストーラーとしてはアーティストの魅力が伝わるような展示や、集客に繋がる仕事の精度を高めてやっていけたらと思っています。僕は学生時代はトランポリンの選手で、会社に入るまではトランポリンの先生をしていたので建築業界の中では異端児なんですよね。専門的な学校を出たわけでもないので独学ですし、ちゃんと学校を出た人からすると劣る部分はあると思うんです。だからこそ僕は様々な展示を観に行ったし、アーティストの方には声を掛けて色々教えてもらったし、自身に足りない部分は自身の足で稼いできたんです。そこで得た一次情報が今の僕のを支えてくれているので、これからも現場で得た経験や感性と共に、家業の坂田工務店も、インストーラーとしても成長していきたいと思ってます。
サカタ カズヤ @kazuyayazuka
INSTALLER
建築設計・施工を軸に、インスタレーションや空間ディレクションを通じて、多様な空間表現に取り組む。坂田工務店の三代目として、伝統的な技術と現代的な感性を融合させながら、アートを中心としたアーティストの活動を空間面からサポート。