ERな人 VOL. 79 福永 紋那 (OH! MY BOOKS)
ERな人 VOL. 79 福永 紋那 (OH! MY BOOKS)
photo, text, edit by NAOKI KUZE
1906年に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)。1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で様々な役割を持ち活躍する”ERな人”達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。

薄暗い雑居ビル2階のピンクの扉を勇気を出して開くと,外からは想像もできない
グリーンのウッドとOH! MY BOOKSの強烈なインパクトのロゴが目を引く空間が現れる。
ーOH! MY BOOKSを始める前はどのようなお仕事をされていたんですか?
福永 紋那 (以下 福永): 1番直近ではアパレルブランドの輸入貿易の仕事で事務をやっていたんですけど、その前は別の貿易会社の営業をやっていたり、そのさらに前は貿易とも関係のない保険会社の営業をやっていたり、比較的職を転々としてました(笑)。
ー営業や事務のお仕事をされていたんですね。とすると過去に本屋で働かれていた経験があったわけではなかったということですよね?どのようなきっかけで本屋をやってみようと思ったんですか?
福永: 先程話した過去の仕事の話になるんですけど、20代はずっと企業に勤めていたもののちょこちょこと転職を繰り返していて。それもいつも同じ理由で、2年ぐらい働くと辞めたくなるみたいな感じで。私は会社の中でチームで働くみたいな事がかなり苦手で。それ故になんでも1人でやろうとして、人にちょっと迷惑かけちゃうことも多くて。さらに極度の朝に弱い体質なんですよ。その上夜更かしして好きな本を読んだり映画を観たりすることも好きだったせいで朝が本当に憂鬱で(笑)。それで朝はとにかく会社に行きたくなくなってしまうっていう負のループに入ってしまい2年ぐらい働くと「もう会社辞めよっかな」っていうモードに入ってしまうという。でも30歳になった時に、「これはこれからも同じようにずっと一生転職し続けるかも知らんぞ」って思って。それはちょっとまずいなと思って、働き方を考え直そうって思った時がちょうどコロナ禍ぐらいで。今まで、途切れることなくずっと次に行く会社を決めて転職してきていたんで、ちょっと、ここで一度立ち止まらないとこれから先のことをちゃんと考えれないかもと思って、初めて完全に会社を辞めて休んでみたんですよね。
ーどれくらいの期間お休みされていたんですか?
福永: 半年ぐらいですかね。その間は家でずっと本読むか映画観るかみたいな感じが最高過ぎて、そんな生活が一生続けられそうな気持ちではいました(笑)。でもそうこうしていると貯金が尽きてきたぞってなって。じゃあそろそろまた働かないといけないけど、これからどうしようってなった時に、今までみたいな会社勤めには戻りたくないなと思ったんです。毎朝、電車乗って、会社に勤め始めたらきっとまた辞めたくなりそうやなと思って。そうなると自分で店を持って働くことをリアルに考えても良いのかなと思ったんです。一緒にお隣でお店をオープンしたmobuの2人もそうですし、私の実家もずっと自営業だったんですよ。そういえば私の身近にいる自営業の人たちは「今から会社行かな」みたいな、あの感じがないのがいいなって思ってたんです。それで、私も自分の店を持つことにチャレンジしてみようかなって動き出したんです。それで何の商材やったら私が扱えるかな?と思った時に色々と悩んで結果、最終的に選んだのが本やったという感じですね。
ー最終的に本に辿り着くまでに色々と悩みましたか?
福永: はい。私、お菓子好きなんでお菓子屋さんとかにも全然憧れはあったし、音楽も好きやからジャズ喫茶とかもいいなとか思ったんですけど、多分私は結構飽き性なので、ガっ!てハマったことって、だいたい1年ぐらいで飽きちゃう事が多くて。それやったら現実的に自分が今までに無意識でやってきたことを振り返ってみると本を読んだり、本を買ったりすることが、もうずっと当たり前のようにやってきたので、本やったら飽きずにできるかもなって思ったのがお店のメイン商材にする決め手でしたね。
ー好きなことを仕事にしてみていかがでしたか?
福永: 実際に本屋をやってみたら、いつも通り本を読んでいても、「これ本読んでる時間も仕事か」と思ったら、こんな幸せなことはないなって思うんです(笑)。
ー好きなことを仕事にすることに向いていたということですね。
福永: 今でこそ本にして本当に良かったなって思えますけど、店をオープンするまでは「どうしよう」って不安になることも多かったですし、”好きなことを仕事に”みたいなハッピー感はそこまでなかったです。どっちかというと背水の陣というか「もう私にはこれしかないな」みたいな切羽詰まった感じでした。OH! MY BOOKSがダメならヤバイなって感じやったんで(笑)。
ーOH! MY BOOKSのコンセプトはどのようにして決めたんですか?
福永: あんまりこう決まったコンセプトは実は作ってなくて。内装に関しては、元々私が何が好きかとかもmobuは知ってくれてたので、それでお店を作る時は改めて結構細かいことも色々喋って。テーマカラーはグリーンがいいなっていうのは私の中で1つあったんですけど、それ以外の空間の使い方とか、什器のディティールは本当に1個1個相談して作ってもらいました。この店は広い空間ではないので「お客さんが来てくれた時に、私はどこにおった方がいいかな?」とか、ジロジロ私が見てる感じだと、多分お客さんが気まずいだろうから、私の目線が気にならないようなレイアウトにして欲しいとか、どんな音楽流したいとか、ほんとに細かい、Q&Aを繰り返してましたね。で、最終的に出来上がったのが、このOH! MY BOOKSっていう感じです。あとは色々話し合った結果、私ができるだけ長くこのOH! MY BOOKSを続けたいので、あんまり気をてらわないというか、今っぽすぎないというか、いつの時代にあってもいいような感じの店でいたいなっていうところを踏まえた空間になってるかなと思ってます。どっかの郊外とかでじいちゃんがやってるようなお店が箱としてあって、そこに孫が跡を継いで、ちょっと自由に好きなもん置いてるみたいな感じです。
OH! MY BOOKSの内装を手掛けた”ERな人 VOL.30”にも出演頂いたmobu / Super Zooの北角さんと談笑する福永さん。
OH! MY BOOKSとSuper Zooはそれぞれ入口が異なるが、実は店内で繋がっていて行き来も出来る風変わりな物件だ。
ーお店をこの幡ヶ谷エリアに決めたのはどうしてですか?
福永: 実は物件を見るまで幡ヶ谷には来たこともなかったんです。元々考えたエリアとしては渋谷近辺で。なぜなら私が東京に出てきて知ってる土地が渋谷区、世田谷区とかだったので、その辺がいいなって思ってたんですけど。いざ、探してみたらこの幡ヶ谷の物件に出会ってしまって。でも実際に来てみて、人も街も空気感が良いので幡ヶ谷にして良かったなって思いますね。
ー大型書店は豊富な品揃えがあるのに対して、インディペンデントな本屋は店主の好みが色濃くお店のラインナップに反映されると思います。OH! MY BOOKSではセレクトしている本のこだわりを教えてください。
福永: 書店経験があったわけじゃないんで、もう私がやれることって言ったら、1冊1冊、自分が読んで良いと思った本を1冊ずつ売るっていうことだけなんですよ。なのでお店でやっていることはディスプレイしている本に結構がっつり説明、いや、説明というより私がこんなふうに読みましたよとか、こんなふうに思ったからこれを読みたいんだっていう紹介文のメッセージをディスプレイとして書いています。そのメッセージを結構喜んでくれるお客さんが多いんですよ。
ーその福永さんのメッセージを読むことで、自身が読むとどのように感じるのかなって興味が湧きますね。
福永: そうですそうです。実際お客さんの中でも、メッセージの札が付いた本を片っ端から読んでくれてる人が結構多いです(笑)。
ーじゃあ本当に読むのが仕事になっていて本屋は天職ですね(笑)。
福永: そうなんです。だからOH! MY BOOKSではどんなジャンルの本があるかっていうより、私が紹介文を書ける本じゃないといけないので、私自身が本当に面白いと思えた本しか置けないんですよね。それに、私はいわゆる本屋の人間ですが、その前に普通の人間として生活していて、読みたくなった本とか、今これ気になるなって思った本を昔から変わらずずっと集めていってるだけなので、あえて、大型書店との差別化とか、そういうことは実はほとんど考えてなくて。シンプルに自分に集められる本を集めているだけなんですよ。
ー良い本に出会って面白かったから、ご自身でも仕入れてみたりされると。
福永: そのパターンもありますね。私はすぐに読まなくてもガンガン本を集めるタイプなんです。その理由は、この本を読んだら、こっちの本も読みたいなとか、読んでなくても読む理由がある本っていうのも結構あるので、そういう観点で本を集めることもあるんですよ。
ーなるほど、確かに本だけでなく映画なんかでもそうですが、一つの物語を知る上で、こっちの本を読んだら、こっちの本も読まないと文脈の全体像が理解できないことも多いですもんね。
福永: そうなんです。私の場合は、例えば好きなアーティストが新しいアルバムを出して、そのインタビューを読んだとして、これすごい面白いこと言ってるなと思ったら、それをキーワードにして本とか映画を探したりとかするのが好きで、なんかそういうセレクトの仕方も多いですかね。
ーOH! MY BOOKSは本以外のセレクトのインポートの文具や雑貨、オリジナルのマーチャンダイズも充実しているも魅力の一つですね。
福永: 最初から本だけある店っていうイメージはしてなくって。もう本当に本以外のものも、本を好きな私が生活で必要なものというか、そういう本と一緒に楽しめるようなものは、はじめからずっと置きたいなって思ってて。インポートのアイテムがちょこちょこあるのは、元々そういう仕事をしてた部分も活かせてるっていう感じですかね。実際うちのマーチャンダイズがそういう何か作品と関係してるわけじゃないんですけど、私自身が好きなラッパーとかができたらすぐグッズとかを買いたくなるタイプで。この映画いいなと思ったらすぐメルカリとかで、その映画のグッズを探し出すみたいなのをよくやるんですよ。だからOH! MY BOOKSに行けばその世界観に合うグッズやマーチャンダイズは絶対置きたいなっていうのはありました。
インポートの文具やアクセサリーなどの雑貨が豊富にラインナップされている。
アメリカのロッカールームのようなスポットにはオリジナルのマーチャンダイズもレイアウトされている。来店したらロッカーの中もチェックするべし。
ー店頭に立つ時のこだわりのワークスタイルを教えてください。
福永: なんかもう私は決めてて、いつも働くときも普通の遊びに行くときもほとんど一緒なんですよね。結構ブランドも絞ってて、トップスはオリジナルのマーチャンダイズをメインにする事が多くて、あとは基本メンズのブランドで、春、夏、冬はワークパンツを穿いてます。夏になったら暑いから最近は今日みたいなショーツですね。去年あたりから暑いのが本当に耐えられなくなってしまって。でも働く時は基本室内だし、お客さんのために冷房はつけていないといけないので、このコードレーンのカバーオールはちょうど温度調整もしやすくて良いんですよね。肌あたりもサラっとしていて快適なんですよ。
LES HALLES JACKET / CORDLANE / BLUE STRIPE
ー今後の展望を聞かせてください。
福永: 今のままっていうか、できるだけずっとこのOH! MY BOOKSを続けていたいんです。ここでずっと働けたら1番いいなって、もうそれはめっちゃ思いますね。店の近くにジャムハウスっていうパン屋さんがあるんですよ。おじいちゃんとおばあちゃん2人でパンとコーヒーを出してるんですけど、もうすっごいニコニコしてて、「こんにちは」って言われたら返さざるを得ないぐらいの、本当に気持ちの良い「こんにちは」なんですよ。多分もう何十年もやってるのに、未だにそのお店でパンを買ったら、100%の「ありがとうございます」を言ってくださるんですよ。もう間違いなく100点満点の「ありがとうございます」なんです。それがすごい鏡やなと思ってて。こんなふうに、OH! MY BOOKSもやっていけたら良いなって思ってます。
福永 紋那 @ohmybooks_ayn
OH! MY BOOKS 店主
1989年兵庫県生まれ。アパレルブランドの輸入貿易の事務や営業など様々な職を渡り歩き、2023年9月、東京・幡ヶ谷と初台の間にOH! MY BOOKSをオープン。1冊ずつ選んでいる古本・新刊と、本と一緒にたのしみたいインポート文具やアクセサリーのほか、オリジナルのマーチャンダイズまでラインナップしている。
OH! MY BOOKS 〒151-0071東京都 渋谷区本町1丁目-18-2ハイツ本町202
オンライストア https://oh-my-books.square.site