ERな人 in LA #1 : Rin Tanaka (Photographer, Editor, "Inspiration" )
ERな人 in LA #1 : Rin Tanaka (Photographer, Editor, "Inspiration" )
SMITH’ S AMERICAN のオリジナルコンテンツ “ER な人”
今回は LA を拠点に活躍される様々なプロフェッショナルにフォーカスした” ER な人 in LA” をスタート。 第一弾として、LA を拠点に活躍されるフォトグラファー、執筆者、ヴィンテージイベント「Inspiration LA 」 を主催するRin Tanaka / 田中凛太郎さんに会いにスタジオのあるロングビーチを訪れました。
- LA に住む事になった経緯やこれまでのご活動を教えて下さい。
それは長い話になりますね。
まず、大学時代にアメリカへ 3 度ほど、しかも毎回 2 ヶ月以上旅をして回った経験があって、「アメリカには僕にすごくフィットする空気感があるなぁ」という実感がありました。 僕は朝から晩まで音楽を聴きながら仕事をしている「ひどい音楽ジャンキー」で、アメリカにいると日常生活の中でどこからともなく好きな音楽が流れてくるんですよ。その感覚は日本では体験したことがなかったんです。
ただ、大学卒業後は 4 年間ほどサラリーマンをしまして、なるべくお金を貯めて、 28 歳の時に会社を辞めてアメリカへ移住しました。素晴らしい職場や同僚に恵まれていたので会社を辞めたかったわけではなかったのですが、 28 歳という年齢を考えると「これがラストチャンスだな」と思ったんです。
まぁ、あの頃は失うものが何もなかったですから。
カリフォルニアに移住してからは、雑誌「Free & Easy」他色々なメディアでお世話になりながら、 僕は古着の専門家なので色々なリサーチを続けていました。 やはり現地にいると、日本では不可能なリサーチが簡単にできたというのは事実だったと思います。 結果的に、過去 25 年間で25 冊の本を出すことができました。2003年に自費出版「My Freedamn!」を始めたんですが、たまたま世界的によく売れまして、2009年ごろに「LA でサイン会でもやろうかな」と企画したら、「どうも 2000人以上来そうだなぁ。 これはサイン会のレベルを超えている!」となり、古着イベント「Inspiration LA」が 2010年にスタートしました。 パンデミックの 2021&2022年はお休みになりましたが、おかげさまで今年で15 年目を迎えており、 11月には東京でも「Inspiration Tokyo」をやることになりました。この 25 年間に色々なことがありまして、想い出話を語りだしたら....... 本が数冊書けると思いますよ。 ただただ充実した25 年でしたね、もちろん辛いこともたくさんありましたが。
- 25年に渡るアメリカでの生活はいかがですか?変化なども感じますか?
基本的に朝7時前に起きて、9時くらいから仕事を始めて、音楽を聴きながら深夜まで働く、 みたいな生活がコロナ前まで続いていた記憶があります。 最近は歳のせいで、あまり夜遅くまで働くことができなくなりましたが。 大きく変わったのは、25 年前はまだインターネットが始まったばかりで、 かなりアナログな生活をしていましたが、今はコンピュータの前に座っていることが多く、 全てにおいて「デジタル漬け」な日々を送っているのが大きな問題でしょうか。 同時に、アメリカ社会も「デジタル化の波」によって相当変わった気がします、良くも悪くも。 急激なデジタル化が「所得の格差」を拡大させ、芸術を殺したことは事実ですが、 まぁそれに関して文句を言っても前の時代には戻れないわけですから、 ポジティブにデジタル社会と向き合うしかないでしょう。
- LAでの生活について教えて下さい、居心地は良いですか?
LA に関しては、とにかく天気が良いので、一年中体調が良いですよね。 風邪なんか滅多にひきませんし。ただ物価が高すぎて、こればかりはどうにもなりません。 それでも、僕は色々な国・街に行きましたが、やはり LA が一番過ごしやすいのは事実でしょうね。 結果的に、25 年もカリフォルニアで生活しています。 食事に関しては、僕の胃袋は今でも「Made in Japan」なので、 アメリカに 25 年住んでいても、いまだに日本食がないとダメですね。 ここは自分の弱点かなぁと。
- 本の編集から、カメラマン、イベントの主催と多彩な活動をされている凛太郎さんですが、 お一人でなんでもこなしてしまうそのエネルギーはどこから来るのでしょうか ? 何か哲学みたいなものがあるのでしょうか?
一人でなんでもやるのは哲学ではなく、僕の性格ですね。僕は良い経営者にはなれない人間で、「人に教えるよりも、自分でやったほうが早い」という考え方なんです。正しくは「自分が経験して、実際に失敗したことがないと、人には教えられない」 という考え方ですね。別に何億円規模のビジネスをやっているわけではありませんから。 あと、アメリカは「ソロ・アーティスト重視」(=個人主義)の国で、
多くの仕事が「 一人のリーダーが仕事をぐいぐいと引っ張り、周りがそれをサポートする」 という構造になっています。 もちろん「チームプレイ」は重要ですが、それでも一人のリーダーがすべての責任を負い、 全体を正しい方向に向かわせないといけないんですよ。 そのあたりの「重圧」や「孤独感」というのはアメリカならではかもしれませんが、 アメリカで生きてゆくためには、孤独を吹き飛ばせるくらいの「強烈な個性と実力」 が必要なんです。 なので、僕が一人でなんでもやるのは、「自分にちゃんとした考え方やエネルギーがなければ、 他人は僕を助けようがない」という事実に基づいた行動だと思います。
- 趣味や大切にしている物事、凛太郎さんのスタイルについて聞かせて下さい。
僕が好きなものは、「アメリカ製の古いもの」(=ヴィンテージ)ですよね。 専門は古着ですが、古い音楽・楽器・オーディオ、古い車にバイクと、アメリカが 1920 年代~1980 年代に 生産したものはなんでも興味があります、トイレットペーパー一つでも。 というのも、よく嗅いでみると、その時代特有の「共通した匂い」みたいなものがあって、 それは全く素材が違っていても、古着でもバイクでも同じ匂いにたどり着いていくんですよ、長い時間を経て。それって科学的には説明しづらいですが、そこに「ヴィンテージの面白さや不思議さ」をよく感じますね。 僕の人生は「好きなことしかやらない」、実際に好きなことしかやってこなかったので、 多分それが自分のスタイルかなと。 ただそんなに自慢できることはありません、所詮「自己満足」ですから。
- ヴィンテージへの造詣が深い凛太郎さんからみたSMITH’Sとは?
「Smith’s」ってオーバーオールのイメージがありますよね、1950代-1970年代くらいのアメリカに存在した。何度か撮影した記憶があるんですよね。産業革命を背景にした20世紀のアメリカが残した大きな遺産の一つは「ワークウェア」だったと思うんですが、「Smith’s」には当時の「古き良き時代のアメリカ」を感じますね。
LE HALLE PAINTER : ORANGE
-今後のお仕事の予定や挑戦してみたい事など教えて下さい。
もう数冊本を出版し、写真もできれば続けたいし、イベントもLAと東京で続けていければ良いかなと……。ただ今年で54歳になるので、特に「夢」とか「ヴィジョン」はもはやないですね。正直、「今やれることをすぐにやる」しかないんですよ、54歳にもなると。個人的には1年前にテナーサックスをはじめまして、毎日練習していますが、なぜかサックスよりも(ジャズ・)ギターが上手くなりましたね。ギターに関してはこの40年間、「永遠の中級者」だったのに、 違う楽器に挑戦すると、なぜか急に指がよく動き、ギターの指板がよく見えるようになったんです。これは「写真・文章・編集」を一人でやる理由と同じで、写真が上手くなると、文章も上手くなる、全体的に良いレイアウトが作れるようになるんですよ、なぜか。あとパンデミックの間は料理を勉強しまして、料理も写真もジャズも「数学的に考えれば(=適当にやらない)、似たようなアプローチが可能」であることもわかりました。そういった意味で、なんでも良いから新しいことに日々挑戦するようにはしています。僕の性格からすると、多分死ぬまでその繰り返しではないでしょうか。
正直、「幸せな人生」かどうかは…...難しいですね、あまりにやることが多すぎて(笑)。
Long Beach にあるスタジオは、ヴィンテージのポスターや書籍、レコードと凛太郎さんの世界そのもの
名刺はギターのピック。 / 4月に開催の Inspiration LAのフライヤー
名著 “King of Vintage” にサインも頂いてしまいました。ありがとうございます。
Rin Tanaka / 田中凛太郎(たなか りんたろう)
1970年山口県岩国市生まれ、横浜育ち。 1990年、慶応義塾大学商学部在住時に“世界最年少の黒人音楽リサーチャー” として執筆活動をスタート。雑誌『Black Music Revue』他の多数の音楽雑誌に寄稿を始める。 1994年よりモーターサイクル・ファッションの分野にフィールドを広げ、古着ファッションのリサーチをスタート。洋書『Motorcycle Jacket』(Schiffer Publishing Ltd)他、数多くの著書を 発表し、現在は古着ファッション研究の世界的な第一人者として知られる。 1998年にカリフォルニア州サンクレメンテに移住。
2003年に自費出版『My Freedamn!』をスタートし、全世界に約1万人のファン、 通称“Freedamn Heads”を持つ. 2010年より、ロサンジェルスにてヴィンテージ・イベント『Inspiration』をスタート
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ヴィンテージ好きであれば誰もが知る” king of vintage” や “My Freedamn!” の著者である 田中凛太郎さんは、実際にお会いすると、飾らない気さくな人柄が魅力的な方でした。 取材からリサーチ、撮影から編集に至る全てを自身でこなして作り上げる書籍と、 その製作にまつわるエピソードを聞くと、その行動力とエネルギーに感銘を受けました。 好きな事を仕事にして道を切り拓く、スタイルのあるかっこいい人でした。 なお、” ER な人 in LA” は、Rin Tanaka 氏にフォトグラファー / エディターとして取材に 同行して頂いた続編を随時公開予定です。