ERな人 VOL. 82 Tsuu (RAIN FALL TATTOO Owner)
ERな人 VOL. 82 Tsuu (RAIN FALL TATTOO Owner)
photo, text, edit by NAOKI KUZE

1906年に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)。1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で様々な役割を持ち活躍する”ERな人”達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。


中目黒の目黒川や菅刈公園の近くのビルに3フロアでスタジオを構える“RAIN FALL TATTOO”






ーTATTOOカルチャーに触れたのはいつ頃ですか?
Tsuu: TATTOOカルチャーに触れたのはアパレルに勤めてた時ですね。横浜の古着屋さんみたいなとこで勤めていたんですけど、当時スケートをやってて、Supremeとかも好きで、その流れでスケートのライダーとかを知っていくと、大体のライダーってもうゴリゴリにTATTOO入ってるんで、そういうところでTATTOOに興味を持つようになりましたね。時期は大学入った頃ぐらいですかね。

ー初めてTATTOOを入れたのもその頃ぐらいですか?
Tsuu: いや、初めてTATTOOを入れたのはもう少し後で20代の中盤ですね。
ーではTATTOOアーティストになろうと思ったきっかけは?
Tsuu: 元々アパレルで働いてた時も、いずれは自分で何かを作る職業に就きたいなみたいなのが漠然とあったんです。販売員の時は、色々ネガティブなことを考えてしまって将来的に不安になることも多くて。せっかく大学も出てたのに、アパレルの販売員でいる自分に気持ちが満たされないところもあって、こんなにモヤモヤするんだったら振り切って、自分で技術を持って働いた方が楽しく生きていけるんじゃないかなって思ったんです。そんな時に、たまたま一緒に働いてる仲間がTATTOOを彫ってるスタジオを紹介してもらって、TATTOO自体僕も好きだったので一緒に彫りに行って。そうしたらめちゃくちゃ楽しそうな仕事だなって思っていたら、たまたまそのスタジオが弟子を募集してたんです。それで居ても立っても居られなってしまってすぐに応募して、拾ってもらったって感じですね。

Tsuuさんの1st TATTOOはスパイダーウェブ。
ーアパレルのお仕事は?
Tsuu: すぐ辞めました。結構怖かったんですけどね(笑)。なぜなら10年以上前なんで、TATTOOっていうのが今みたいにライトじゃない時代で、TATTOOで生きていくっていうことがまだ確立されてないというか。今はもう若い子がカジュアルに自分でやり始めました!みたいなこともわりと普通になってきてはいるんですけど、僕がこの業界に入った当時はそんな人1人もいなかったので、やっぱり当時は怖かったですね。うん。でも始めたら始めたでやっぱり充実して楽しかったです。

ーTATTOOの世界に入って、大変だった時のエピソードはありますか?
Tsuu: スタジオに入ってまず大変だったことは、僕はタバコも酒もやらないんですよ。でもスタジオの人たちってすごくタバコを吸うから、スタジオにいるだけで喉が痛いし、煙で涙は出てくるし、付き合いでお酒も飲まないといけないし、酒とタバコをやらない僕にとってはそれはそれは毎日きつかったですね。TATTOOに関しては、僕は絵をほとんど描いたことがない状態で入ったんで、TATTOOの絵がわかんないというか、どういう風に描いたらTATTOOの絵になるんだろうっていうことで悩んでいたし、描いても描いてもわからないというか。やっぱり美大とか卒業してたら、絵に対するハードルがそもそもないと思うんですけど、僕はもう基礎が無いところからのスタートだったんで、何よりそういった状況が1番きつかったですね。
ー幼い頃からとか、趣味で絵を描いたりはされていなかったんですか?
Tsuu: 子どもの頃にポケモンを模写したり、ドラゴンボールを模写したり、それぐらいのレベルです(笑)。だからスタジオに入ってからめちゃくちゃ努力しました。



ーでは逆に楽しかったエピソードを聞かせてください。
Tsuu: 彫師としてデビューできると、初対面の方と、1対1で仕事ができるっていうところですかね。お客様が何回か来てくださったりすると、だんだんTATTOOを入れることが、その人の中でもルーティーンというか、その生活の一部になってきて、その人の生活のことだったりとか、どういう仕事をされてるとかっていうのをすごく話すようになるんですよ。そうなってくると自分が生きてない世界観とかを疑似体験できるじゃないですけど、話を聞いて、いろんな世界があるっていうところを、仕事をしながら会話の中で吸収できるんですよ。それが楽しいですね。


ー20代半ばでスタジオに入られて、どのタイミングで独立しようと?
Tsuu: 初めから僕は独立しようと思ってて。やっぱ自分の力で稼いでいきたいと思っていたし、誰かに雇われるってのがちょっと嫌だったんですよね。だから大学卒業後も会社員になるっていうことが選べなくて。だからスタジオに入った時に僕は最初に「いずれ独立したいです」って言ってたんです。師匠とか兄弟子からは生意気なやつだなと思われてたと思うんですけど、それでも僕は最初から自分の店は出す気でいたので、30歳までに独立しようっていう期限を自分の中で決めて修行してました。




ー独立されてこの“RAIN FALL TATTOO”をオープンされましたが、名前の由来を教えてください。
Tsuu: 名前は本当にもう安直というか。僕、6月6日生まれなんですよ。梅雨の時期なんで“RAIN”を入れようと思ったんですけど、“RAIN TATTOO”だとなんかちょっと語呂が悪いなと思って。それで“RAIN FALL TATTOO”の方が語呂的にもかっこいいよなっていうだけですね。本当にシンプルに決めました。ちなみに僕は梅雨自体は別に好きではないです(笑)。
ー“RAIN FALL TATTOO”をこの中目黒に構えようと思ったきっかけは?
Tsuu: この中目黒は僕が20代の前半にDJもやってた時があって、その時に、1番最初に回した箱がSOLFAっていう小さなクラブだったんです。そっからだんだん他の都内の大箱とかでもやるようになったんですけど。中目黒はその時にも結構来ていたし、好きな街だったんですよね。中目黒だったら、落ち着いた人たちも多くておしゃれだし、自分がやりたいスタジオの方向性に合ってるのかなと思ってこの場所に選びました。
ーTsuuさんがスタジオワークする際のスタイリングのこだわりを教えてください。
Tsuu: 彫り師ってインクが飛ぶんですよ。だから高いものは着ないです(笑)。だから自然とシンプルで汚してもかっこいいものを選んでしまうというか。だからトップスは普通のTシャツやロンT。ボトムスも基本的に汚れても良いものしか選ばないのでカーゴパンツとか、今日穿いているSMITH’Sのペインターパンツみたいなワークパンツが多いし好きなんですよね。



LES HALLES PAINTER / uneven cord / JADE
ーでは最後に今後の展望を聞かせてください。
Tsuu: 例えばコンベンションに出て賞を取りたいとか、有名になりたいとかっていう気持ちはあんまりないんですよね。元々1人で1フロアで“RAIN FALL TATTOO”をやってきた中で、今では弟子も10人ぐらいいて、3フロアに店舗を増床した理由も、やっぱり一緒に働くメンバーが多い方が、楽しいよねっていうシンプルな気持ちで増やしただけで。特になんかこう東京でNo1スタジオになろうとか、そういう気持ちはさらさらなくて。“RAIN FALL TATTOO”の仲間が増えるってことは、そのお客さんの目につく、その母数が増えるっていうことだと思うんですけど、たくさんのお客さんに来ていただいて、やっぱTATTOOっていいよねって思ってもらいたいんですよ。TATTOOはその人の生活の一部になれるっていう素晴らしい職業なんで、それを基本的にずっとやっていけたら良いと思っていて。正直、来てくれたお客さんと日々楽しくやっていければ本望なので。展望って言われると、ちょっと難しいんですけど、これ以上スタジオの規模を広げて、天下取ってやろうとかそういう気持ちは本当に全くないですね。強いていうなら、自分の技術は常に向上していきたいので、それがお客さんに還元していければ良いのかなと思っています。


Tsuu @tsuu_rainfall
RAIN FALL TATTOO Owner
20代前半に刺青の世界に魅せられ、横浜や町田のスタジオで修行。そこから彫り師としての道を歩み始める。国内外のタトゥーアーティストとの交流を重ねながら腕を磨き、東京・中目黒に「RAIN FALL TATTOO」をオープン。色彩豊かなアメリカントラディショナルや、和彫り、メリハリの効いたブラックアンドグレイの表現を得意とする。ファッションや音楽業界の交流も広く、そういった分野から受けるインスピレーションも、自身のデザインに影響を与えている。オフの日は自然の中に繰りだし、バス釣りを楽しむのがライフワーク。
RAIN FALL TATTOO http://rainfalltattoo.com