ERな人 VOL. 72 船谷 晴子(MILLVALLEY 店主)
ERな人 VOL.72 船谷 晴子(MILLVALLEY 店主)
photo, text, edit by NAOKI KUZE
1906年に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)。1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で様々な役割を持ち活躍する”ERな人”達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。
都立大学駅から徒歩5分、八雲通り商店街に店舗を構えるLAを中心としたアーティストによる陶器や染め物などのホームグッズを集めた雑貨店MILLVALLEY
ーMILLVALLEYはいつオープンされたんですか。
船谷 晴子 (以下船谷): 2017年の12月頃に、はじめは学芸大学に事務所を兼ねたお店としてスタートしました。
ーそれ以前はどんなお仕事を?
船谷: 雑貨メーカーで企画の仕事を10年ぴったりやっていました。ゆくゆくは雑貨メーカーでやっていたような仕事を独立してやりたいなと思ってはいたんですけど、東京で働く前は、1997年から2007年までLAに住んでいて、その時の友達が物作りをしているから、その友達の作っているモノを紹介できる空間があれば良いなと思ってもいたんです。お店を始めたのはそれもきっかけのひとつですね。
ー他にもきっかけがあったんですか?
船谷: はい。私が会社から独立する1年ほど前に先輩が会社を辞めて祐天寺にVOIRY STOREというオリジナルの雑貨・ワークウェアのお店を始めたんですよ。そのお店を訪れた時に、私自身も会社で長年にわたって雑貨の企画、生産管理、ライセンス商品からアーティストとのコラボ案件まで、果ては中国の工場の人とも仲良くやっていましたし、卸なども1人で一通りやっていたこともあり、「私にもお店できるかも」って思ったんですよね。そういった経緯もあってVOIRY STOREの近くでもある学芸大学にお店を構えることにしたんです。
ーMIILLVALLEYをオープンされるにあたって、ショップのコンセプトはどのように決められたんですか?
船谷: あまりコンセプトはなくて、むしろ持ちたくないなっていうのはあるんです。ただやりたかったこととして、LAの友達が作ってるモノと、その友達のまた友達とか、知り合いになった人のものだけしか買い付けをしていなくて。全くもう知らない人から仕入れるってことはないんです。自分が本当に好きなものだけにしようっていうのだけは決めてるっていうか。結果的には自然とそうなっています。

カリフォルニア・ロングビーチを拠点に活動する陶芸家Sara Ekua Toddによるマグやエスカルゴ型のユニークな壁掛けフック。
Heidi Anderson、KNOTWORK LA、miwaclayなど陶器作品が従実している。
レザーグッズブランドMade Solidからはキーチェーンやトレイ、ベルトなどが揃う。
食卓が楽しくなるカラーが揃うMADREの100%リネンナプキン。
アクセサリーも多数セレクトされている。
ー買い付けはどのようなスタイルで?
船谷: 買い付けはもうほぼLAですね。コスメやキャンドルなどだけは代理店さんから仕入れをすることもありますが、あとはもう全部自分の足で出向いて持って帰ってきたものだけをお店に並べています。
ー基本的にはハンドキャリーなんですか?
船谷: おっきいカートをLAでいつも2箱買って、買い付けたモノをパッキングして、それでスーツケースも2つ持っていつも持って帰ってきてます。だからMILLVALLEYでは器の商品も多いんですけど一点一点丁寧にパッキングして。
ー陶器の商品も多いですが全てハンドキャリーですか!?
船谷: 例えばシアトルのHeidi Andersonの作品は、持って帰る時に初めはシアトルからLAまで送ってもらっていたんですけど、その時点で壊れてしまっていたことがあってからはパサデナにあるボックスシティという今では行きつけになっている梱包資材の店があるので、そこでいつも梱包してますよ。パッキングは大変だけど割と好きなんです(笑)。
ー店の名前はなぜにMILLVALEYに?
船谷: ”MILLVALLEY”っていう町がカリフォルニアにあるんですよ。正直私自身には全然関係ない場所なんです。行ったこともないし(笑)。関係はないんだけど、でも初めに店の名前を考えた時に、”VALLEY”ってつけたいなと思って。あとは砂漠とか、なんか乾燥した感じが良いなと。それで本当は”VALLEY”にしたかったんですけど、さっきお話ししていた先輩のお店が”VOIRY”でなんかネーミングの雰囲気がちょっと近いなと思ってしまって。だったら”VALLEY”の前になんかつけようと思ったんです。色々探したけど、結構色んな名前もなんか登録されてるのが多くて、もう被らない名前にしないとってことで”MILLVALLEY”っていうゴロの響きの良さだけで落ち着いたんです。今となってはとても気に入ってるんですけど。あとYAKUMOっていうのは昨年に学芸大学からこちらの店舗に移店したタイミングでつけたんですけど、特に名前に意味はないんです(笑)。ロゴに関していうと猫は本当に大好きで、この猫はLAをベースに活動しているアーティストのYusuke Tsukamotoに描いてもらっています。そのYusukeくんっていうのは私がLAにいた頃からの友達でもあるんですけど、私は昔から彼のデザインのファンなんです。だからお店を始めた時にロゴは彼にお願いしたいと思ってたんだけど、彼はのんびりだから、やっと八雲に移店をするタイミングで仕上げてくれたんです。
八雲に移転後に完成したYusuke Tsukamoto氏によるロゴ。
Yusuke Tsukamoto氏の妻で染め職人のNiki氏と夫婦運営しているlookout & wonderland。元々Niki氏の染め物を紹介したくてお店を持とうと思ったと船谷さんは語る。
ー独立されて気持ちの変化はありましたか?
船谷: やっぱり楽しいですね。楽しいというか、事務所兼みたいな感じでお店をやっているので、商品を売るのは、下手だなっていうのは初めからもうわかっていたし、わかったんですけど(笑)、だから、私は商売には向いてないけど、作る方の仕事だけはもう嫌だし、売る方の仕事だけっていうのも嫌だから、両方できている今バランスは良いかなと思っているんです。あとはここのお店も、来てくれた人は多分みんな喋りに来てるんですよね。私自身が商品を強くお勧めするみたいな接客をしないのでとにかく一緒に喋ってるんです。もうほぼ喋り。喋り要員みたいな感じで店番をしています(笑)。八雲に移店してからはカウンターキッチンができてコーヒーや焼き菓子なども提供できるようになったので余計フラッと来店しやすくなったんだと思います。
ーただでさえ居心地の良い空間な上、お店で美味しいコーヒーや焼き菓子が堪能できるのは最高ですね。
船谷: コーヒーや焼き菓子を提供出来るようになるために、衛星管理責任者の資格などもちゃんと取得したんです。お店ではPOP UPイベントも定期的に行なっているので、イベントの時はクラフトビールなんかも出しているんですよ。
MILLVALLEY移店前にこの物件で、アメリカンベイキングを中心としたお菓子教室を運営し、料理本なども絶大な人気を誇る船谷さんの友人であるキャシー氏の絶品の焼き菓子もコーヒーと一緒に楽しめる。
ー船谷さんが働く上で、ワークウェアでこだわっているところを教えてください。
船谷: みんなそうだと思うんですけど、ある程度年齢がいくと楽な格好になるじゃないですか(笑)。通勤で自転車にも乗ることが多いので自然と楽なシルエットだったり、着心地が良いのに気兼ねなくタフに使えるワーク系のアイテムは手放せないですね。デリケートな服なあんまり着ないですね。そういったアイテムに昔から好きな古着や、友人のブランドを手にすることも多いのでそういった組み合わせがこだわりとまではいかずとも、自分らしいスタイルに繋がっているかもしれないですね。
ー将来の展望を教えてください。
船谷: 大きな夢はないんですけど。でも、今お店をやってて1番楽しいのが友達のブランドと一緒にここでPOP UPイベントをするのが1番楽しいので、それを続けていきたいですね。私はPOPUPイベントが好きなんだろうなと思うんです。やっぱり人が集まるのが好きで、そういう空間を作るっていうのもお店を作った目的の1つでもあると思います。居心地いい空間をキープしつつ、時々POP UPイベントで、みんなワーって集まれるのがいいかなと思って。それを楽しみつつ続けられるように頑張りたいです。あとはアメリカでももっとPOP UPイベントに参加していきたいと思ってて。こっちから出店していくっていうことも年に1回ぐらいはやっていきたいですね。為替の問題もあるんで、向こうで売った方が絶対いいでしょう(笑)?そのタイミングで買付けも合わせて出来ますしね。あとは最近オリジナルで商品があまり作れていないので、友達のブランドとコラボしたモノとか色々と物作りも出来たらなと思っています。

LES HALLES JACKET / COTTON CORDLANE BLUE STRIPE
船谷 晴子 @millvalley_tokyo
MILLVALLEY 店主
雑貨店と雑貨制作を二つの軸に展開するmillvalley yakumo。10年間、雑貨メーカーの企画職で培った経験を活かし、2017年に”ひとり雑貨メーカー”として制作活動を開始。同時に、長年暮らしたロサンゼルスで出会った大好きなアーティストたちの作品を紹介する場として、雑貨店をオープン。人々が心地よく感じ、長居したくなる空間づくりを目指し、人と人との繋がりの中から生まれる創造(モノ・コト)を何よりの喜びとして、その繋がりを最も大切にしながら活動しています。
オンラインストア https://www.millvalley.tokyo