ERな人 VOL.69 あっこゴリラ (RAPPER)


ERな人 VOL.69 あっこゴリラ (RAPPER)

photo, text, edit by NAOKI KUZE 

 

1906年に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で様々な役割を持ち活躍する”ERな人達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。

 

202518日に、6年ぶりのフルアルバム「キメラ」をリリースされました。どのようなアルバムなんですか?

あっこゴリラ: コンセプトアルバムなんです。18曲入りなんですけど、18曲で1曲っていうぐらいの世界観で構築しました。曲順から曲目まで、全ての楽曲に必然性を持たせて作られた作品です。テーマはお祭り・キメラ・ファイヤー3本軸で、夜11時から始まる祭りの幕開けから、最後、朝方5時の始発列車の時間までのタイムテーブルを組んで、その流れで一枚のアルバムのストーリーを組んでいったコンセプト作品です。

ーサブスクが主流になった現代でアルバム一枚を聴き込むリスナーが減っている現象が起き、シングルやEPなど曲目が少ない作品が音楽業界では主流になっていると耳にしたことがあるのですが、あっこゴリラさんの新作「キメラ」を聴いた時に1曲目から最後の曲まで流れるように曲目が移り変わり、アルバム一枚で一貫した世界観を構築した作品と出会ったのは久しぶりの感覚でした。とてもカッコいいアルバムでした。18曲で一つのコンセプトを編み、アルバムを構築するという構想はどのようにして?

あっこゴリラ: 実は昔からいつかやりたいなと思ってはいたんです。昨今、こういうコンセプト作品は少なくはなってるとは思うんです。でも、自分が好きなアーティストやカッコいいなと思うアーティストはちゃんとやってたりするから。だから物怖じしたくないなっていうのがテーマとしてあったんです。ていうのも、時代がこういうの求めてるから、じゃあこういうのをやろうって言って自分の表現を曲げちゃうと、曲げないでちゃんとやってるアーティストを見た時の罪悪感がヤバイっていうか、うわーみたいな。私も本当はやりたかったのに。ってそういう経験もしてきたことがあるから。もう私、今年で音楽活動10周年になるんですけど、もう自分の表現にブレーキかけたくないなって思ってて。今回のアルバムは自分にとってもいいタイミングだなと思って。だからやっちゃおうって感じで。そう、以前みたいに自分が事務所、メジャーレーベルに所属してたら、止められちゃうことでもあると思うんだけど、独立してるしっていうのもあって、今ならできるなと思ったんです。

ー独立というキーワードが出てきましたが、フルアルバムの前作「GRRRLISM」を発表された時はメジャーレーベルからでしたよね。今作はインディペンデントな環境になったからこその環境の変化や、創作の幅に対する制限がなくなったからこそ「キメラ」を完成することが出来たということもあるのでしょうか?

あっこゴリラ: うん、そうですね。でも、すぐそうなれたわけでもなくて、自分の心の変化ももちろんあったし、J-WAVEでラジオ番組のメインナビゲーターを5年半やってたんですよ。その間、メジャーから独立して、すぐコロナが来て、その辺りからラジオで音楽番組をレギュラーでやってたんで、その期間がずっと音楽を学ぶ期間だったんですよ。週45年半。そこでたくさんその世界の音楽業界の動きもそうだし、こんな面白い音楽がいっぱいあるんだなとか、色々知ることができたそういういい時間になったんですよね。だから、それが「キメラ」を生み出す大きい体験だったなって。自分の独立もそうだけど、ラジオがでかかったなって思いますね。

ーラジオの音楽番組のメインナビゲーターという立場でないと知り得ないような音楽や情報も学べそうですね。

あっこゴリラ: 私は、東京生まれ東京育ちなんですけど、ラジオの収録には六本木ヒルズに週4で通う生活だったんですよ。だから、東京最先端のものを常に見るというか、向き合わないといけない日々で。だから、そんな生活の時じゃないと書けない曲を書こうっていうのもすごいあったんですよ。そういう自分がいたその環境のおかげかなとも思いますし、それがしっかり出せたかなとも思いますね。

 

ーアルバム「キメラ」を構成するエッセンスとして日本民謡も取り入れられていますよね。日本民謡を取り入れた楽曲を作ろうと思ったアイデアはどのようにして?

あっこゴリラ: 民謡は本作で全体的にサンプリングをしてるわけじゃないんですけど、印象的なところで、何曲かサンプリングしてるっていう感じなんです。民謡もそのトラディショナルな祭・フェスティバルミュージックみたいなただの高揚感だけじゃなくて、荒々しい感じとか、そういうところをラジオ番組で特集したことがあったんです。その時に民謡に対して、これは私がめちゃくちゃ大好きなモノなのに、全然ちゃんと見ていなかったものだ!みたいな。そういう発見があって、自分のルーツにこんなやばいダンスミュージックがあったのか!っていう、すごい大きな発見でした。それに自分が日本人であるっていうところで、東京生まれ東京育ち、東京ってなんだろうとかって考えた時に、自分がやってる音楽自体は元々日本のこととか、社会のこととかはめちゃくちゃリリックにも反映されてるけど、なんかそういうトラディショナルな部分も入れたいなと思ったんですよね。自分の血肉になってるものみたいな、そういうものを入れてより、私が今ここにいるよっていうところをちゃんと世界に提示したいなと。そういう想いがあって。ラジオを通して民謡と出会って「これじゃん!」って。

ーラップと日本民謡という異ジャンルの音楽が掛け合わせれているのに、ミスマッチ感はなく非常にカッコよく昇華されていると感じましたし、トラックも前作と比べると全く違ったアプローチで制作されているのにも関わらずそこには変わらずあっこゴリラがいるし、嘘のないリリックで、あっこゴリラの血肉がそのまま楽曲に乗っかっているような印象です。

あっこゴリラ: それ言われます。自分でもそう思ってます。作品を作ることって、もう過去を燃やし尽くしてでも作っちゃえみたいな、そういう感覚なわけですよ。で、「キメラ」なんて特にそういう気持ちだったんです。もう新しく!みたいな気持ちだったんですけど、いざ渾身のアルバムができたと思ったら、めちゃくちゃ私やん。って思いました()

ー他のアーティストだと、アルバムごとにコンセプトが変わると、賛否でもネガティブ面の意見が多く出ることって多いじゃないですか。「GRRRLISM」ではジェンダーについての楽曲も多かったと思うので、ここまでコンセプトや音作りの違うアルバムになっても、新しくも変わらずカッコいいあっこゴリラがちゃんといるから、賛否のの人はほぼほぼいないのではないかなと思いました。

あっこゴリラ: あっこゴリラのメッセージに共感していた人と、あっこゴリラの生き様を追いたいっていう人がいて、その両方も兼ねてるっていう人もいて、あっこゴリラの生き様を追いたいって人に関してはもう何も変わってないねって感じだと思うし、そのメッセージに共感を求めていた人からしたら、物足りなくはなったかもしれないんだけど、私もそこだけになっちゃうと、自分がやりたいヒップホップとずれちゃうところがあったから。だから、今回コンセプトアルバムという形でその振り幅を出せてよかったなって。あっこゴリラの今後のキャリアのためにも「キメラ」は作らなきゃいけないアルバムだったんですよね。できて良かったです。

ーいやいや、物足りないどころかメッセージ性もバチバチありましたよ()

あっこゴリラ: GRRRLISM」の頃は、メッセージ性に特化してたのかも。今回は景色ですね。ここに、この場所に、私はいる。こんなものがある。私はこんなことを思っている、こうあるべきなんじゃないかと思ってるとか。でもこんなこと思っちゃってるとか。そういういろんな景色を描けたのかなって感じています。そもそもが、引っ張るタイプっていうか、火付役になりがちみたいな、何かを始めたりけしかけたりするのが得意っていうか、いつもそういうマインドなんですよ。いっつもこいつなんか始めてなんか終わってんなみたいな、なんかそういう感じだから、だから得意分野ではあるんだけど、なんかそこだけじゃなくて、もっといろんなところをちゃんと撒きたいなという感じです。

 

ー最後の曲「from zero」でのアルバムの締め方もとても美しかったです。オール明けの浮遊感と山手線のLOOP感が見事でした。それに「キメラ」という新しいコンセプトを打ち出したあっこゴリラさんの最後のリリックで「ゼロから私は始める」と、「次に行くんだ」というような意思表示のようなことも感じられて、リスナーの方も今後が楽しみなんじゃないかと思いますね。

あっこゴリラ: 山手線って東京だし、東京だからつまり空洞。東京は空洞っていうけど、もうサークルの空洞みたいな。自分が東京生まれ東京育ちならではの感覚だなっていうのも思ってて。私はこれまでもいろんな世界を旅してきたし、いろんな場所に行ってるけど、多分東京生まれで帰る田舎がないからなんですよね。どっか行きたいみたいな。東京じゃない人って東京に行きたがるじゃないですか。でも私は東京生まれだから。なんか東京に対してそこまでなんか熱がないんです。だからどこかにいきたいと思うし、東京のリアルみたいな感じを上手く曲に出来たかなと思います。

ー全国5カ所を巡る「キメラTOUR」がすでにスタートしていますが、各地での反応はいかがでしょうか?

あっこゴリラ: キメラをきっかけにまたちょっとなんかこう、反応が変わってきてる感じもあって。各地のお客さんたちは、それまで私の名前は知ってたけど聴いたことなかったと。でも聴いてみたらカッコいいねみたいなことを言ってくれたり、結構好みな感じなんだけどって言ってくれたり。そういう人がちょっとずつ増えてる感じがあります。

ー「キメラ」に収録されている「逆境天使」の冒頭の歌詞名前は有名 でも曲聴いたことはないで"のその続きみたいになってますね。

あっこゴリラ: そうなんですよ()。で、写真撮ってもいいですか?って、すごい恐縮されながら頼まれるます。物販買ってくれたらいいよって()。だから、名前は知ってるけど聴いたことないって人が聴いてくれるきっかけに「キメラ」はなってくれてるなって感じがしてて、それがすごい面白いですね。もっともっと巻き込んでいきたいんですけど。ちょっとずつそれを感じてます。だから、418日に開催するツアーファイナルの渋谷WWWまで、頑張ろう!って感じです。

ー沢山の人に聴いて欲しいっていうのは当然だと思うのですが、あえて質問します。あっこゴリラさんの個人的な意見としてどんな人に聴いて欲しかったり、刺さったら良いなと思いますか?

あっこゴリラ: 私が思ってるのはどんな人っていうよりかは、終わってんな。しけてんな。みたいに思ってる瞬間の人に聴いて欲しいんですよね。私の曲は何もかもどうでもいいやって思っちゃってる時とか、すっごいフィットすると思う。あと、なんだろうな。いじけちゃったり、しょぼくれてる時に聴いて欲しいかも。そういう感じです。

ーあっこゴリラさんの楽曲を聴くとポジティブにケツを叩かれる感じがします。

あっこゴリラ: 年齢層とか属性っていう感じよりかはそうかも。意外とみんなどんなに充実した生活送ってそうな人でも、意外と今めっちゃメンタルやばくてってなっている人とかいるじゃないですか。みんな本当に色んな瞬間あるから。なんかそういうしょぼくれてる、いじけてるとか、そういう時に私の音楽を聴いてもらうのが1番いいんじゃないかなと思う。なんかそういう、今、人前に出たくない、今人に会いたくないっていう時でも、あっこゴリラのライブだったら行けるってなりたいんですよね。オシャレしてライブに行くっていうのも素敵なんだけど、本当に誰にも会いたくない、メイクとか服とか着たくないって日あるじゃないですか。だけど、あっこゴリラのライブには行きたい。みたいなそういう人。そういう時でも行けるライブっていうか、人でありたいんですよね、私は。そうなりたいなって思ってます。願望ですけど。うん、なりたいです。

ーミュージシャンとしてのステージに立ったり、楽曲制作する上で、スタイリングのこだわりを教えてください。

あっこゴリラ: 私はとにかく自分に負荷をあんまりかけたくないので、ネイルは短く、ヒール履かないです。厚底は履きます。オシャレは我慢するっていうのも、もちろん私はそういう気合いとかも大好きなんだけど。自分自身にはその気合いはないです()。でもライブの時は、より一層気合入れてるかも。服は。ライブとライブ以外で違うのかも。ファッションってちょっとテンション上げるものだと思うんですけど、ライブに関してはテンション上げるどころの騒ぎじゃないかもしれないです()。ちょっと人間超えるぐらいのレベルなので、ライブの時はスタイリングは飛ばしていきたいなと思ってますね。スタイリングが飛んでる方が、ライブに来てくれているみんなも飛べるんで。やっぱり来てくれる人が飛んでくれるのが1番大事だから。だからライブの時のファッションはなるべく飛ばしていきたいです。プライベートのファッションは私セットアップが好きで。しかも最近黒髪にしてから、暗めの色のセットアップが本当に好きで。スタイリングが決めやすいっていうか、小物ちょっと付け足すだけでいい感じになるじゃないですか。今日来ているカバーオールとペインターパンツも細いコードレーンの質感がパジャマみたいに軽くてめちゃくちゃ良くて気に入っています。質感がめちゃくちゃ可愛いからいいなって思います。

LES HALLES JACKET & PANTS  /COTTON CORDLANE / CHARCOAL

ー今後の展望を聞かせてください。

あっこゴリラ: 私、将来の展望っていう考え方じゃなくて。私は現代における「今」の開放装置を作りたいだけなんですよ。で、その「今」って、その時の「今」で変わるじゃないですか。だから、それをやるだけなんですよね。だから、その将来の展望自体がずれちゃうんですよね。

ー是非、あっこゴリラさんの考え方で聞かせてください。

あっこゴリラ: 今の開放装置を作るっていうのが、私の人生のタスクだと思ってるし、使命みたいな感じだと思ってるんです。それが楽曲であり、自分の開催するパーティーであると思っていて。そのパーティーの規模を広げていきたいかな。パーティーの規模を広げて、もっとわけわかんない現象、いっぱい起こしたいなって思っています。この間のパーティーでも、ブレイクダンスを踊ってるスーツのサラリーマンの人がいて、ばちくそかっけえと思っちゃって。なんかそういうサラリーマンがダンスフロアに輝いちゃう、あの感じとか、ギャルが炭鉱節を踊ってたりとかしてね、そういうわけわかんない、面白い現象をいっぱい起こして、同じ思いの人を集めるんじゃなくて、みんながバラバラで過ごしてても大丈夫な空間を作りたいんですよね。はみ出してもオッケーだし、なんならはみ出してるという概念がないみたいな、そういう空間を私は作りたいんですよ。だからジェンダーのこととかも今まですごく考えてきたけど、要するに誰も誰もが、ただその人として存在しているっていうことがめっちゃカッコよくて、キラキラしてるっていうのが証明される空間を作りたいんですよね。自分のパーティーで自分がやりたいのはそういうことだから。この「キメラTOUR」もそうですけど、自分のパーティーの規模を広げたいですね。だから作品もこれからまた新しいものをたくさん作って、みんなの開放装置を作ってって感じなんです。

ー最後に渋谷WWWで開催する「キメラTOURファイナル」はどのようなパーティーになりますか?

あっこゴリラ: 418日の渋谷WWWは、本当にすごいです。本当にすごいんだから。うん。いや、ほんとすごいと思うんですよね、これ。内容は言えないんですけど()。とにかく、祭を巻き起こします!っていう感じです。ぜひ遊びに来てください!

 

あっこゴリラ @akkogorilla

RAPPER

ドラマーとしてキャリアスタートし、バンド解散後、2015年よりラッパーに転身。2017CINDERELLA MC BATTLEで優勝。「自己の解放」をテーマにした多様な美や性や生を描いた楽曲を次々と発表し続け、多くの賛同を受ける。2019年~2024年までJ-WAVESONAR MUSIC』でメインナビゲーターを務める他、大学でのジェンダー講義や、アフリカ大陸マラウイで村人を巻き込んだストリートライヴなど、業界の壁を超えた唯一無二の表現活動を行う。 2022年、合同会社ゴリちゃんカンパニー設立。楽曲提供も積極的に行い、人気アニメ「かぐや様は告らせたい」への提供曲「My Nonfiction」が、海外のクランチロールアニメアワードにて「最優秀アニソン賞」部門でノミネートされる。ちなみにゴリラの由来はノリ。

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