ERな人 VOL.57 きじまりゅうた (料理研究家)

ERな人 VOL.57 きじまりゅうた (料理研究家)

photo, text, edit by NAOKI KUZE 

 

1906年に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)。1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で様々な役割を持ち活躍する”ERな人”達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。 

 

ー料理研究家として活動される前は、元々アパレルブランドのディレクターをされていたようですね。料理研究家として活動することになったきっかけを教えてください。

きじまりゅうた (以下きじま): めちゃくちゃ特殊なんですけど、僕は大学の2年生からアパレルの会社に入って働いていたんですよ。

ー社員としてですか?

きじま: 5で働いていたので、契約形態こそ社員じゃなかったんですけど実質的には社員でしたね()。ストレートで卒業は出来てはいるんですけど大学の思い出はほぼアパレルでした。大学生ながらめちゃくちゃアパレルで働いていたんですけど、大学を卒業した年に料理研究家だった祖母が亡くなったんですよ。僕は高校生の時に一度祖母に「俺も料理研究家になりたいんだけど」って言ったら祖母は「男がやる仕事じゃないからやらない方がいい」って言われて。それで僕はアパレル業界に進んだところもあったんですよ。でも祖母が亡くなった時に周りの人から「本当はりゅうたに料理やって欲しかったみたいよ」って聞かされて、そうなんだって。僕もその時期にアパレルを一生の仕事にして良いのか?とフワフワしていた時期だったので、もうそれで思い切って料理の道に進もうと決心して母のアシスタントになりました。

 

取材時はイベントで紹介する料理の試作をされていたきじまさん

 

ー学生時代からバリバリとアパレルで働かれていた環境から一変、お母様のアシスタントとして料理研究家への道に踏み出されたわけですが大変だったことはありますか?

きじま: 大変だったのはアシスタントに就いたことによって収入が無くなったので、つまりは金がなくなりました()。アパレルの時に貯めたものも無くなりましたからね。でもアパレルを辞めたとはいえ、その前にいた会社の仕事を外注でちょっと手伝ったりとかはしていたので、それがなかったらもう食っていけてなかったですね。4年間ぐらいは結構きつい日々が続きました。

ーアシスタント時代に印象に残っているエピソードはございますか?

きじま: たまにパーティーを開いて稼いでました()。友達を呼んで「合コンするならウチでやれ!」って言って会費を1¥3,000ぐらい取って、「8人だったら良い額になるな」みたいな感じで料理を振る舞ったんですけど、どれだけ材料費をケチって粗利を取れる料理を出すかっていう()。粗利取りつつケチ臭く見えない料理を振る舞うっていう実際にはすごい勉強になりましたね。1番最初にとりあえず最初に簡単なスープを出して、コース料理みたいな構成にしてそれでちょっとなんかみんなにテンション上げてもらって、徐々に徐々に気持ちを上げてもらえるような構成にして。まるでDJのような感覚で()。あの頃の自分としては本当に勉強になりましたね。

 

キレイなきつね色に上がった蕎麦がき

 

ー料理研究家として独立をされて、大活躍をされてらっしゃる中で、テレビや雑誌に出演をされたり、イベントで出られたりすることが多いと思うんですけど。今は、Youtubeでの配信活動も積極的にされていらっしゃいますね。

きじま: 実はまだ料理系の配信者が世の中にまだまだ出てきていない時期に僕はニコ生で配信をしたりしていたんですけど、テレビや雑誌の仕事で忙しくなってしまって。でもそうこうしているうちにコロナ禍に突入してしまって。それでレギュラーでやってた仕事なんかが結構無くなってしまったんですよね。それで重い腰を上げて2021年にYoutubeチャンネルを立ち上げることにしたんです。

Youtubeチャンネルの更新頻度はどれくらいですか?

きじま: 今でこそ月に6~7回の更新頻度なんですけど、最初の2年は週に2回のペースで動画を更新していたので料理も考えないといけないし収録もしないといけないしっていう地獄のスケジュールでした()1日で6~7本の動画を撮影して翌日にはすぐに編集してっていうフローで回していたんですけど、動画編集も自身でやっているのでとにかく大変で。でももうちょっと早く始めてれば良かったなっていうのは正直ありますね。

ーというと?

きじま: 編集するのが嫌でYoutubeを始めるのをずっと躊躇っていたんですけど、いざ始めてみたら意外と動画編集が嫌いじゃなくて()。スケジュール的には大変ではあったんですけどむしろ動画編集でPCをちょこちょこやんのが結構好きだっていうことに気付いて()。今となってはもう慣れたもんです。

試作した料理を手際よく盛り付け、記録用に撮影する。

 

Youtubeチャンネルでのきじまさんのこだわりを教えてください。

きじま: 作りやすさですね。材料が少ない。手間が掛からない。あと調味料が覚えやすい。Youtubeに関しては特にこだわっているポイントですね。

 

きじまさんはいつも料理をする前にレシピをPCに打ち込んでシミュレーションをしてから実際の調理に入るという。

 

ーあるピーマンを使用した動画ではピーマンのヘタをそのまま使ったりされていて、全体的に料理の工程がとてもシンプルですよね。

きじま: そうそうそう。意外と11個ヘタを取ったりするのってめんどくさいじゃないですか。だったらそのまま使って食べれば良いじゃんって感じですね。スタンスとして。

ーたくさんあると思うのですが、秋冬におすすめの料理はありますか?

きじま: 僕は茶碗蒸しってあんまり具いらない派なので「具なし茶碗蒸し」とか秋冬におすすめです。具のない茶碗蒸しなんて誰もやってないから動画も19万回再生されてて結構跳ねてるので好評ですね。この料理自体も特に簡単なので個人的にもおすすめです!是非作ってみて欲しいですね。

 

きじまごはんでは料理初心者から玄人まで気軽に楽しめる美味しいレシピがたくさん紹介されている。

 

ーめちゃくちゃ斬新なメニューですね()。でも動画を観るとなぜ具が要らないのか納得できるのでこの記事を読んだ方にも是非作ってもらいたいですね。

きじま: Youtubeってその時期の旬の食材でみんな検索してるらしくて、旬のものは特に安く売ってるじゃないですか。だから旬な食材プラス定番。みんなが知ってる料理の組み合わせがやっぱ1番人気があるみたいです。いつでも手に入るスーパーの定番の豚こま肉も薄~いやつを食材として使用することがあるんですけど、プロがそんな薄い肉を使って料理をしていると視聴者さんも観ていて一気に気が楽になるじゃないですか。そういったことをベースに料理を考えたり動画を作りつつ、たまになんか自分がホントに好きでやりたい料理とかを時々収録して投稿したりすると「あ、やっぱ再生数伸びねえな()」って思いながら取り組んでます。

ーファッションでも同じようなことがありますよね。

きじま: そうそう。絶対売れないってわかっってるのに売れない色を作っちゃうみたいな感じですね。僕もアパレルをやってた頃の感覚と、料理の感覚が、結構そこが似てると感じてるんですよ。ネタ出しの仕方とか、多分みんながこういうものを求めてるから、こういうものを作ろうっていう感覚もあるし、なんかこういうのあった方がかっこいいよねって出す料理もあるし。アパレルやってた頃の経験とか感覚っていうのは、未だに料理でも使えるんですよ。

ーきじまさんの服装のこなしだけでなく、佇まいや身振り手振りの仕草にもとてもファッション感やストリート感が表れていると思います。

きじま: 出ますよね()。でももうずっとニューエラ被ってNHKとかの料理番組に10何年も出てんのに、誰からも最初突っ込まれなかったんですよ()。「俺がB BOYだということは本当はわかってんだろ!」みたいな()。最近でも、40歳過ぎてから、割とそういうスタイルももっと出していいかなって。どうしてもおばちゃんとかにいちいちファッション的なことを聞かれるのが嫌だったんで、あんまりそういうB BOYぽい仕草はしなかったんですけども、最近はもっと素の自分で良いのかなと。

ーお仕事をする上できじまさんにとってのワークスタイルとは?

きじま: キャップ年中被っていて欠かせないし、エプロンは胸まであるやつ。それに首が凝っちゃうので後ろクロスのタイプを選んでますね。料理の邪魔になるので長袖だったら袖が落ちてこないもの。パンツはあんまりタイトなのもの着てると疲れちゃうから。子供の頃からずっとルーズなシルエットが好きなんだけど、やっぱ料理する時もルーズなシルエットがいいんですよ。でも基本的にこの自宅というか台所で仕事してるので、裾がやっぱ長いやつとかだと料理をしていて気になっちゃうのでこのSMITH’Sのペインターパンツは適度にゆとりがありつつ裾も極端にダブつかないので調子が良いんですよね。トップスはバックプリントのTシャツをついつい集めてしまうんですよ。背中で語る感じというか。いつもエプロンをしているので背中でしか語れないというか()

ーでは最後にきじまさんの今後の展望を教えてください。

きじま: もう生涯この仕事を続けるっていうのがまず1番なんですよ。で、その生涯の仕事を続けていく上では、やっぱり色んな仕事のやり方をしなきゃいけないし、 逆になんか全然関係ない仕事をしても、最終的にそれが料理の仕事に完結しちゃえばもうなんでもオッケーみたいな感じで、割と好き勝手に一生やってこうかなって思ってます。あと海外進出したいんですよ。なんか日本食がクールジャパンみたいな、政府の施策があるじゃないですか?個人的には全然イケてないと思っているんですよ。クールジャパンみたいなので海外に日本の料理紹介するっつうと、未だに寿司屋とか天ぷら屋を連れてくんですよ。いや、寿司屋、天ぷら屋連れてってもそれ食べさせるまでで終わっちゃうじゃないですか。僕を連れてってくれたら海外の人に日本料理を作らせるまで行かせますから!っていう。海外の人に家で日本の料理作ってもらうぐらいのことをやるには、やっぱ料理家が海外に行くっていうのは意味があることなんじゃないかと思ってて。めちゃくちゃ挑戦してみたいんですよね。いろんな国の人に作ってもらいやすい料理は提案できんじゃないかなと思ってて。やっぱ海外行って、その土地土地のスーパーで食材買って料理作るとか超楽しいんで。僕がニューヨークで肉じゃが作ったりね。

ーニューヨークで肉じゃがは痺れますね。

きじま: 今年で独立して16年目なんですけど全然飽きないんですよ。なんでも僕自身が面白がれればいいやみたいな感じでやってると、楽しい仕事がどんどん来るなみたいな感じなので、この調子でさらに面白いと思えることを料理を通してやっていきたいですね。

 

 LES HALLES PAINTER 14W CORD / BORDEAUX

 

 

 

 

きじまりゅうた @ryutakijima

料理研究家

祖母と母が料理研究家という家庭で育つ。

幼い頃は肥満児。高校はアメリカンフットボールに熱中し大学在学中にアパレルメーカーに就職。20代前半はブランドディレクターを勤める。

その後、母である料理研究家・杵島直美のアシスタントになり5年間の修行を重ね、28歳で独立。男子料理ブームの波に乗り、雑誌や書籍へのレシピ作成を中心に活動を始め修行時代からの目標だった番組「きょうの料理」(NHK)に29歳で初出演。初年度から特番の旅企画にも挑戦。「あさイチ」をはじめ全国での料理教室やイベント・講演会などにも多数出演し料理家としてのキャリアを積む。2016年NHKで「きじまりゅうたの小腹がすきました」がスタートし、さらに活動の幅を広げている。

楽しくわかりやすいトークとオリジナリティあふれる料理をモットーに男性のリアルな視点から考えた「若い世代にもムリのない料理」の作り方を提案している。

趣味はサーフィン・山歩き・ブラックミュージックを中心とした音楽鑑賞。鹿狩りに同行するな

どジビエにも興味がある。

Youtube: きじまごはん【料理家きじまりゅうた公式チャンネル】

https://www.youtube.com/@kijimagohan

 

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