ERな人 VOL.35 JUNPEI SUZUKI (Cinematographer / Director of Photography) & 佐野 円香 (Photographer)
photo, text, edit by NAOKI KUZE
1906に創業したアメリカンワークブランド”SMITH’S AMERICAN”(以下スミス)。1970年台に日本で流通するとリアルワーカーからアメカジフリークまで、ジャンルレスに様々な人々に愛され続けてきたブランドです。このウェブマガジン「ERな人」では、そんなスミスを身にまとった現代で 様々な役割を持ち活躍する”ERな人”達の仕事やライフスタイルをご紹介していきます。
ーJUNPEI SUZUKIさんはシネマトグラファーとして、佐野 円香さんはフォトグラファーとしてそれぞれ活動をされている一方で、お二人は夫婦でありながら協同でコンスタントにショートフィルムを中心とした自主制作作品をSNSにて発表されていますが、その活動を始められたきっかけについて教えてください。
JUNPEI SUZUKI (以下JUNPEI): 2012年に僕がカメラを買ってからずっと自主制作を撮り続けてるんですよ。なので10年以上続けてることになりますね。
佐野 円香: (以下円香): JUNPEIがライフワーク的に週に2・3回撮影をし続けてきた中で、結婚を機に私もその自主制作活動に加わったという状態ですね。
JUNPEI: いや、円香ちゃんが加わったというよりかは、僕自身10年もやってると正直モチベーションなんてとっくに無くなってるので家でゴロゴロしてると「やれ!」とケツを叩いてくるんですよ。40代のおじさんがバカなことをやってる姿は面白いからとにかく「やれ!」と。
円香: JUNPEIが「今日は出来ない。やりたくない。」っていう日があったりすると、私がJUNPEIに内緒で俳優さんに連絡しておくんですよ。するとしばらくすると「ピンポーン」って家のチャイムが鳴って何も知らずにJUNPEIが玄関の扉を開けると俳優さんがもう来てるわけですよ。
JUNPEI: 僕は何も知らないから俳優さんに「え、、、?どうかしましたか?」って固まってると俳優さんは「撮影ですよね?円香さんに呼ばれて来ました!」って言うんですよ。「じゃあ撮影に行くかぁ、、、」って流れに強制的になるんですよ。円香ちゃんがいなかったらとっくにこんなにハイペースで自主制作はしてないですね。正直めちゃくちゃキツいです(笑)。自主制作を初めた頃はやっていないことが沢山あったんで色々とチャレンジも出来て良かったんですけど、10年以上もこのペースでやってると色々やり尽くしてしまってて撮影のネタを考えるのも本当にしんどく て。
円香: 「撮影する?しない?」を聞いちゃうとめんどくさがってやらないのでモチベが下がってる時は勝手にキャスティングをしておいて「はい撮影行きますよ~♪」って流れを作ってます(笑)。
JUNPEI: 細かく数えてないんですけどトータルする1000本以上撮ってきていて、多い時は1日で 7本ぐらい撮った日もあるんです。死んじゃいますよ(笑)。
自主制作の撮影現場に同行させていただきました。この日召集されたのは俳優の宮原尚之さん。 2人の自主制作の作品にも数多く出演している。
まずは雑談からスタート。
この日の機材は円香さんのCanon R5を使用。
ーそれぞれのフィールドで仕事をこなしながらも、凄まじくハイペースなルーティーンで自主制作をされる理由とは?
JUNPEI: 僕がモチベがないって漏らすと、円香ちゃんが「40代のおじさんが一生懸命アホなことしてるのは、クリエイターとして夢を追っている後輩たちのためにもなるから頑張りなさい。」って言うんですよ。
円香: JUNPEIは実は3rdキャリアなんです。元々20代の時に10年ほど俳優をやっていて、そのあと監督をやって、37歳の時にシネマトグラファーになったんです。俳優や監督として10年以上も映像作品に携わってきた中で、37歳っていうシネマトグラファーとしては非常に遅いタイミングでキャリアをスタートさせて、メジャーな作品のお仕事をさせてもらえるようになっても、まだ「撮影修行だ!」って言って泥臭くライフワークをやり続けていることに意味があると私は思っているんです。だからJUNPEIには「頑張りなさい」と(笑)。続けた先にしか答えはありませんけどね。
JUNPEI: 今すぐにでもやめたいですけどね(笑)。
ー沢山の自主制作作品を発表されていらっしゃいますが、コミカルなものからシリアスなものまで、形にハマらない作風ですが、いつもどのように作品のテーマを決めて撮影をされているんですか?
円香: フリートークからネタが生まれることが多いですね。一つ例を挙げると、過去の”絶対絶命2 柔軟剤編”という作品を発表してるんですけど、これは”柔軟剤”のことを”じゅうなんざい”ではなく” にゅうなんざい”だと思ってたっていうストーリーなんです。これはたまたま私たちが出演してくれていた俳優の女の子と柔軟剤の話をしていた時にJUNPEIだけ”にゅうなんざい”って話していたことから。「じゃあ今日はこのネタでいこう」って発展させてガンアクションの世界観に落とし込んで制作したショートフィルムなんですよ。
JUNPEI: 元々僕が俳優をやってたんで人間観察や面白いモノを探すことが得意なんですよ。昔は面白い人が絶対にいるので電車に1日中乗ったりとか。そのおかげで面白い人やモノのストックがめちゃくちゃ沢山あるんですよ。僕と円香ちゃんが一緒に歩いてる時に前から歩いてきたカップルとすれ違った時に一瞬聞こえた会話から「今日はあの会話から広げよう」とか何気ない日常から 作品に仕上げていくことが本当に多いですね。ただ10年以上やってて一つ守っていることがあっ て、人が傷つかない作品のテイストっていうのは徹底的に守ってます。誰が作品を観ても嫌な気持ちにならないように表現の仕方は毎回気をつけてますね。
円香: うん。一方向の視点や感覚の表現にならないように、解釈が複雑になりそうな時は違う表現で撮り直すようにしてるよね。
JUNPEI: あとは都度、撮影に来てくれた俳優さん達を見て、どう撮影したらその子達が美味しくなるかなっていうことしか考えてないですね。初めは自分のためだけに自主制作をしていたのが 10年以上も続けているとそんな欲も無くなってきて、関わってくれた人たちがどうやったら得をするかっていうことばっかり最近は考えて作ってますね。
ロケ地に到着して10分ほど経過したところでJUNPEIさんから宮原さんに「アニメのキャラみたいに走ってみて」とのお題が。 そしてすぐさまそのお題に応える宮原さん。
「じゃあそれでいってみようか」とJUNPEIさん。
すかさず「もっと落ち着いて考えて!」と突っ込む円香さんだったがJUNPEIさんの案でひとまず撮影することに。
ロケ地に着いてから15分足らずで撮影テーマやセリフ、演出などゼロベースの状態から撮影がスタート。 一般的な動画撮影ではあり得ない驚異的なスピード感で撮影をし始める3人。
一般的な動画撮影の現場では数分の動画撮影でも丸一日費やすこともあるが、 JUNPEIさんと円香さんの自主制作撮影では大体1カットや2カット撮影してしまうとサクサク次のシーンに移行していく。
人力でアニメの動きを再現する宮原さん
続いて2本目の撮影は佐野さんがカメラを担当し、JUNPEIさんも自ら演者に。
3者の全力がぶつかり合う撮影現場。
ーでは日々自主制作を続けていらっしゃるお二人にとって、自主制作をする上で感じるやりがいについて教えてください。
JUNPEI: やりがいは結構あるんですよ。自主制作の作品をSNSに上げていると、出演してくれた俳優さんから、その作品がきっかけで「オーディションが決まりました!」って報告してもらえた時なんかは嬉しいですね。
円香: 自主制作作品がきっかけで「作品に呼んでもらえました」とか、「オーディションに行ったら自主制作の作品の話をしてもらえました」とか言ってもらえることが結構あるので私もそこは本当にやりがいを感じますね。私たちの作品には基本的に台本も無く、その場で演出も考えて” よーいドン”で撮影をするので、私たちも俳優さんたちも準備をすることが出来ずに作品作りに入ります。結果的に良くも悪くも素の個性が作品に現れるんですよね。その工程が普段のお芝居とか仕事では発見出来ない気付きになるので私たちも含め参加しているみんなが新たな経験値を得る ことが出来る時間になっていると思います。
JUNPEI: ちなみに宮原さんはいつも僕たちの自主制作にいつも急に呼び出されて出演してくれてるけどどんな気持ちなの?
(ここで今回の自主制作撮影に出演してくださった俳優の宮原 尚之さんにいきなり質問を投げかけるJUNPEIさん)
宮原 尚之 (以下宮原): 僕は誘ってもらえて単純に嬉しいんですよね。俳優ってカメラの前で鍛錬というか、素振りをする機会がないんですよ。俳優ってどんな役を求められても対応できる色々なスキルを身につけておく必要があると思うんですけど、いざカメラを向けられて「芝居をしてください」って言われた時に思うように演じられなかったと感じる事も多いんですよ。でもJUNPEIさんと円香さんの自主制作の撮影にこうやって誘って頂いてカメラの前で演技をさせてもらえるのは度胸も付きますし俳優としてはとてもありがたいですね。現場に行くと「JUNPEI君の作品観た よ」って僕のことを予め知ってもらえていることも本当に多いですしね。
自主制作作品では常連の宮原さんはコミカルな演技からシリアスな演技まで見事に演じ分けている。 是非他の作品もチェックしてみて欲しい。
円香: JUNPEIは自主制作をやり尽くしたとか辞めたいってさっきから言ってますけど、他に遊びもしないし、お酒も飲まないので、結局カメラを持って友達と集まって撮影をするしか遊びがないんですよ(笑)。先日、2日間で7人の撮影をした時も「この撮影でこの作品の撮影も終わりかぁ~ 終わっちゃうの寂しいな~」って言ってて。撮影してる時はJUNPEIにとって一番楽しい時間だっていうのは明白なんですよ。例えるならJUNPEIにとって自主制作は、入るまでが面倒くさいけど入っちゃうとめちゃくちゃ気持ち良いお風呂と一緒なんですよ(笑)。確かに自主制作はやり尽くしてるから撮影に入るまでが腰が重いけど、友達と会って、撮影して、「じゃあね~」っていう一連の流れが結局は一番楽しい遊びなんです。
JUNPEI: 確かにね(笑)。自主制作を始めたての頃は撮影が終わる度に毎回ちゃんと打ち上げをやったりしてたんですけど、打ち上げをしてる時間も撮影に回したいから俳優のみんなには「打ち上げはもうやらない。打ち上げをする時は自主制作をやめる時だ。」って伝えてますね(笑)。それに基本的に僕はネガティブな人間なんですけど、カメラを持っている時だけは自然とポジティブになれるんですよ。
この日制作された2作品はJUNPEIさんのSNSにて公開されている。 “気持ちいい日" https://www.instagram.com/reel/CyfwwmPSr2A/?igshid=MzRlODBiNWFlZA==
撮影した素材を確認する3人。
常にコントをしているような和気藹々とした空気が流れる。
ー今日撮影に同行させていただいた印象としては、JUNPEIさんにネガティブな要素は一切感じないほど3人で本当に楽しそうに撮影をされているなと感じました。
JUNPEI: いつも葛藤はあるんですよ。本当は一番良い100点満点の作品だけを発表したいんですよ。でもそのやり方だと人生間に合わないなと思ってて。駄作だろうと何だろうと世に出してやれ!って思ってやってはいるものの、すぐにネガティブになるんですよ。だから今でもこんなに多くの自主制作作品を作っていてもSNSに投稿する瞬間は「こんなの上げて大丈夫かな、、、」ってネガティブになって投稿するのをやめようとしてしまう時もありますからね。毎回実は勇気を振り絞って投稿してるんですよ。
円香: 今の世の中の風潮というか、SNSって自信のあるモノを基本的には投稿するじゃないですか。でも、100本映像作品を作ったとして、その中から「これだ!」という1本の作品を投稿するのと、「これだ!」という1本の作品とその他の99本の作品も投稿するとしたら、1本の傑作と思える作品を出したっていう同じ結果ではあるものの、残りの99本も人に観てもらえるモノとして努力して作って発表しているということは間違いなく自身の糧になっていると思っていて。駄作だったとしても人に見せられる形にまで何が何でも仕上げて発表するのが私たち流の自主制作の正解だと私は思っているんです。
JUNPEI: 良い物だけを人に見せるのが世の中のスタンダードだと思うし、僕自身も昔から映像に関わってきていて、先輩達からも100点満点の物を世に出していけっていう風に教わってきたんですよ。でも今は全部さらけ出すように作った物を発表しているし、実際新しい仕事に繋がる時のきっかけになる作品は僕たちが張り切って作った作品じゃなくて、僕らにとってはあんまり大したことない力の抜けた作品だったりするんですよね(笑)。「あ、そっちの作品が引っかかるんだ!?」ってなることも多いんですよ(笑)。
ー今後、お二人が挑戦したいことはありますか?
円香: ワークショップっていうと私たちとしてはむず痒いので”勉強会”って呼んでいるんですけど、 定期的に”勉強会”と称して、カメラマン・俳優・ディレクターたちを募って、初めましてのメンバーばかりでグループを組んでもらって、私たちが日頃行っている自主制作と同じような限られた短い時間で作品を作ったり、アドバイスし合ったり、情報共有をする場を設けてるんです。”勉強会”で はそれぞれの立場の気持ちになって作品に向かい合えるようにしていて、参加者はもちろんなんですけど、主催をしている私たちも技術の向上だけではない多くの学びを得ることが出来るんですよ。日頃の仕事の現場だけでは得られない新たな発見もあるし色んな夢を持った熱い人たちと切磋琢磨できる場なので、今後”勉強会”の開催にはより力を入れて取り組んでいきたいです。
宮原: JUNPEIさんは俳優も監督もやってきた人なので説得力があるんですよ。お題に対して僕ら俳優が上手く演じようとしても、正直JUNPEIさんが自分で演じた方が上手いと思うんですよね。 軸があるから参加者も安心して取り組めるんですよ。
JUNPEI: 僕は役者をまたやりたいですね。
ー確かに以前に比べて、最近の自主制作の作品にJUNPEIさん自ら演技をされている作品が増えているなと感じていました。
JUNPEI: 少し前に演技を試してみたんですよ。そうしたら、役者をやってた時よりも演じるのが楽しかったんですよ(笑)。当時は売れたいとか色んなことを考えながら役者をしていたので、素直に演じることを楽しめていなかったんですけど、今は何も考えず力を抜いて演じてるので純粋に演技をすることが楽しいんです。なので新しくないかもですけど、撮影もして、芝居もして、周りの人からはずっと「あの人色々と何やってんの(笑)」ぐらいの感じで思われてたいですね。それで円香ちゃんが言うように救われる人がいたら良いなと。
円香: まだまだ型にハマらなければいけないことの多い社会で、苦しい思いをしている人はいっぱいいると思うので、JUNPEIのように何歳からでも新しいことにチャレンジしても大丈夫なんだよって伝えられたら良いよね。もっと自由で良いんだよって。JUNPEIの姿に救われる人はいっぱいいるんじゃないかなって思ってます。
<JUNPEI> デニムカバーオール (SMITH’S) ¥26,400 / Tシャツ (cluct) / パンツ (寅壱) / スニーカー (HOKA)
<円香> ベスト (THE NORTH FACE) / カットソー (TODAYFUL) / ペインターパンツ (SMITH’S) ¥17,600 / スニーカー (Nike)
JUNPEI SUZUKI @junpeisuzuki155
Cinematographer / Director of Photography 2004年公開の映画「チルソクの夏」(佐々部清監督)安大豪役で俳優デビュー。
その後数々の映画、テレビ、CMに出演。 2011年に所属していたユマニテを辞め映画監督を目指し自主映画制作を始める。
森ガキ侑大監督から「監督よりもカメラマンの方が向いている」と言われ1から撮影技術を習う ために渡米。
2016年9月にロサンゼルスにあるNEW YORK FILM ACADEMYシネマトグラフィープログラ ムを卒業。
在学中に制作した短編映画「TO FEEL HUMAN」(監督・撮影・編集)がカンヌ映画祭を始め国内外 の映画祭に多数入選。
2017年4月から東京にてシネマトグラファー として活動中。
映画「8 Mile」を観てロドリゴ・プリエトの手持ち撮影スタイルに憧れ、映画を100回近く観て 手持ち撮影を研究。 近年のプリエトの撮影スタイルに感化され三脚やドリーを使ったかっちりした映像の撮影スタイ ルに目覚め中。
2020年よりクリエイティブチームShow+erとしても活動している。
Website https://www.junpei-suzuki.com
佐野円香 @sanomadoka_photo
Photographer
東京生まれ
15歳より独学で写真を始める
2008年 独立
2013年 第61回朝日広告賞グランプリ受賞 2020年よりクリエイティブチームShow+erとしても活動している。 女性のグラビアを始めポートレート撮影を中心に活動中。 過去の雑誌やWEBでの企画連載は「さのスニーカー’s」、「佐野企画」、「週末モデル」、 「OVER GIRL」、「工具みーつガール」、「今、東京でキミを撮る」、「ウィズマイガール」