ERな人 VOL.7 whole owner 綱川禎子

ERなひと VOL.7 whole owner 綱川禎子

photo / Kazuharu Igarashi text / Koji Toyoda

  

1906年創業のアメリカンワークブランド〈スミス アメリカン〉。1960年代にメイド・イン・USA物の草分けとして日本流通するようになって半世紀。その魅力は決してリアルワーカーのためだけではない。様々な分野のエキスパートたちにその良さを大いに語ってもらった。

  

小さなフラワーショップのために作った〈SMITH’S〉のガウン。

 

オーナーの綱川さんはわりとシックなペールピンクカラーを着用。スタッフの安部璃乃さんはポップなオレンジカラーが、チャームポイントのブロンドヘアと相性抜群。
 

 

<すべては毎月贈られたブーケから始まった>

代々木八幡のフラワーショップ『whole』の綱川禎子さんがお花屋さんになったきっかけは、旦那さんが毎月欠かさず贈ったブーケ。

「初めのうちはキレイだなぁとか。どう飾ろうかなとか。毎日の暮らしの中におけるごくありふれたものでしかなかったんですが、ある時、『このお花の名前は何て言うんだろう?』と調べ出したら、徐々に興味が湧いてきまして。気がつけば、大手アパレルショップのVMDの仕事と並行して、原宿の花屋『ザ リトルショップ オブ フラワーズ』でインターンとして働くようになっていました」

それはもしかしたら偶然ではなく必然だったのかもしれない。と言うのは実は綱川さんには「いつか自分の店を持ちたい」という小さな夢があったから。そのささやかな願いを花に託すようにその世界にのめり込み、それまで続けていたVMDの仕事は諦め、お花一筋に。そして、2017年に念願が叶って自身の店をオープン。2年後には、花の世界に導いてくれた夫の美容室がオープンするとその入口脇に移転し、見目麗しい花々に囲まれて忙しい日々を送っている。

 

左上/接客中は開けたままでも腰を据えて仕事に取り組むときは横紐をギュッと絞り、コートを閉じた状態に。右上/クリアなガラス瓶をカラフルに彩るのは、売れ残ったお花は乾燥させたドライフラワー。香りを付けてポプリにして販売する予定とか。まだパッケージングや売り方も含めて思案中。左中/店内にはお花の他にキャンドルも販売。NYのハンドメイドキャンドルブランド〈yenabell〉とコラボレーションした力作で、パロサントやヒノキ、セージなどをブレンドしたウッディな香りが特徴。左の450gはバスルームに、右の800gはリビングルームに置くのがおすすめだとか。右中/壁は、綱川さんのムードボード。植物にまつわるキュートなイラストなどをペタペタ貼る。左下/アンティークのウッドボウルにさりげなく置かれるのはショップカード。右下/〈スミス〉と一緒に作ったガウンには、大きなポケットが一つ。ここには綱川さんにとっての“PC”、スマホや園芸ばさみを入れる。

 
 

 

<お花を洋服のスタイリングのように組み合わせる>

 

「『wholeらしいセレクトって何ですか?』と聞かれると困ってしまうんですが、しいて言うならば、お花の組み合わせには人一倍気を使っています。例えば、ファレノファシスのようなシックな花には、ポップな雰囲気のアリウム・スネークボールやポピーを合わせてみたり。その逆もまた然り。異なる素材やテイストの洋服を上手にスタイリングするような遊び心を常に忘れないように心掛けています。週3回、花のラインナップがガラリと変わるので、その都度、その都度で『whole』らしい組み合わせを楽しんでもらえたらなぁと」

お花を洋服のように考えるだけあって、本人やスタッフの着るものにも人一倍気を使う。フラワーショップにありがちなエプロンやユニフォームなどは開店当初から一切作らず、本人たちの着こなしも含めて、『whole』らしさを形作ってきた。が、なんだかんだで床に膝を突く作業や水を使う作業も多いこともあって……。背に腹は変えられぬと思いから〈SMITH’S〉と製作することになったのが冒頭の写真で彼女とスタッフの安部さんが羽織っているガウンだ。

「なぜ〈SMITH’S〉? とお客さんは思うかもしれないですが、実はスタッフの紹介で偶然繋がることになって。そういった縁を大切にしたいなと常々思っているので、今回お願いすることになったんです。本当は自分たちでタイダイ染めのエプロンでも作ろうかとも話していたところだったんですよ(笑)」

 

上/腰紐を絞ったときの後ろ姿は、ご覧の通りの美しいドレープ具合。左下/綱川さんが一番好きだと話してくれたチューリップ。チューリップと一口に言っても、種類も咲き方も様々。それが面白いのだとか。右下/タグは、‘60年代頃から変わらずトリコタグ。当時はブランド名の下に“UNION MADE”と表記されていたが、今回選んだものは創業の地、BROOKLYN N.Y.とデカデカと入るタイプ。

 

<出来上がったのは、ミニマルなガウン>

そんな良縁から生まれたガウンは、〈SMITH’S〉が展開するレギュラー品のカラー別注ではなく、イチから相談しながら作り上げた特注品(SMITH’Sで今後販売する予定はなし)。

「白衣や作業着っぽいものにすると店自体もコンセプチュアルな雰囲気になってしまいそうで。あくまで私たちが好きなテイストの洋服の延長で作ってもらったんです。モチーフにしたのは、2000年頃の〈マルタン マルジェラ〉のガウン。カラーリングは、私の大好きなチューリップみたいなペールピンクと、それとは真逆で色鮮やかなオレンジ。オレンジには茶のステッチ、ペールピンクには山吹色のステッチを施し、お花のブーケと同じような“組み合わせ”を意識しています。作業中は電卓やスケジュールや予約帳代わりのスマホと園芸鋏くらいしか使わないので、左側に大きなポケットをひとつ。極力無駄を省いたミニマルな1着にしてもらいました」

シャツのように軽やかなコットン生地には初期撥水加工が施されているので、ちょっとやそっとの水滴ならしっかり弾く。市場から仕入れた花を“水揚げ”するときも便利なんだとか。

「それにちょっとした生地のハリ感だったり、腕周りがゆったりしているところもワークウェアならでは。洋服の上からガバッと着られるし、カラーレスなので、シャツやタートルネックをインナーに合わせてもカジュアルに見えるところもいいんですよね」


と、綱川さんは初めてのユニフォームをお気に入りの様子。取材当日に納品されたばかりだから今はまだまっさらの状態だけど、日々の作業や汚れに揉まれていくうちに、「『whole』と言ったら、あのガウンだよね」と言った看板的なユニフォームになっていくだろう。小さな花園の中で、そのガウンが一際輝いて見えるような気がした。

右から、まだ蕾の状態のポピー、カラー、ラナンキュラス、サンパブロ(チューリップ)ファレノプシス(胡蝶蘭)、ウネウネと茎が伸びたアリウム・スネークボール。『whole』というお店を魅力を凝縮したような素敵なブーケ。

『whole』
2017年、富ヶ谷交差点近くのワインバー『TOMIGAYA CALME』の一角で週末のみオープンするフラワーショップとしてスタート。その後、旦那さんの美容室『awry by the manner』に併設する形で現在の代々木八幡エリアに移転。週末は行列ができるほど人気。ちなみにお店のロゴは書道家としても活動する旦那さんの手書きだ。○東京都渋谷区元代々木町25-8 ☎︎03・6407・0660 月12:00〜18:00、水13:00〜19:00、金14:00〜19:00、木・土・日13:00 火 休